最近、気になる売り場を見かけ、気になる発言を聞きました。
見たのはニトリでのこと。この季節、これまで売り場の一等地をハロウィン商品が占めていたものですが、それが「ある商品」に置き換えられていました。
次に、聞いたのはある会合でのこと。ある業界のトップが重点課題として声高に「ある商品」を挙げていました。
期せずして、その二つが一致していました。ある商品とは「SPA家電」です。
かつて「家電」といえば、パナソニックやソニー、東芝といった総合電機メーカーの独壇場でした。ブランドの信頼性と技術力を背景に、家電量販店の売り場は大手メーカーの商品で埋め尽くされていました。
流通業はメーカー商品を流通させる立場であり、価格はメーカー希望小売価格に従うのが常識でした。しかし、流通業者が独自に商品を企画・販売する動き、いわゆるSPA家電の潮流は、1960年代のダイエーに端を発しています。
中内功の挑戦と挫折
SPA家電の嚆矢は、ダイエーの創業者・中内功までさかのぼります。流通革命の旗手と呼ばれた中内は「消費者のためにメーカーの支配から脱却し、安く商品を提供する」という強い思想を掲げ、プライベートブランドによる家電の開発に力を入れたのです。
とりわけテレビ市場では、プライベートブランド「BUBU」という13型カラーテレビを発売。価格は5万9800円と、当時のメーカー品の半値でした。当時はメーカー希望小売価格に従うのが普通だったため、流通業者が積極的に商品企画に関わる先駆的な取り組みでした。
しかし、松下電器(現パナソニック)は、ダイエーへの出荷停止で対抗し、特約店に圧力をかけました。この「ダイエー・松下戦争」は、日本の流通史における象徴的事件として知られています。流通業者がメーカーに挑戦する姿勢を示す象徴的な出来事です。
中内功の思想の根底には、「消費者の利益を最優先し、メーカーに従属しない経営」がありました。テレビの開発や松下電器との対立も、この考え方が底流に流れています。
その後、ダイエーは洗濯機や電卓などのプライベートブランドも発売。しかし、その後の売れ行きは低迷しました。消費者のメーカー信仰は依然として強かったのです。ダイエーの試みは、企画力、品質管理、販売戦略を同時に整えなければ、低価格戦略だけでは成功しないことを示す歴史的教訓でもありました。

SPA家電のその後
時代が進み、いまやSPA家電は家電市場に定着しました。その開拓者として忘れてはならないのが、生活用品の企画・製造・販売会社のアイリスオーヤマです。1958年創業の同社の商品開発史は養殖用ブイから始まります。
今日では、炊飯器や掃除機、加湿器などを必要十分な機能とリーズナブルな価格で提供し、省スペース設計や静音化、操作の簡便さなど生活者目線の工夫を随所に取り入れています。企画・設計・販売を自社で主導するSPAモデルにより、低・中価格帯市場で確固たる存在感を示しています。
小売業も量販店のSPA家電が拡大しています。イオンの「トップバリュ」は生活家電だけでなく食品や日用品まで幅広く展開し、低価格で一定の品質を確保しています。無印良品の家電シリーズはシンプルで機能的なデザインと、生活空間に調和する統一感で差別化を図っています。さらに、ドン・キホーテの「情熱価格」は低価格ながら個性的なデザインで、若年層や単身世帯の支持を集めています。
現代のSPA家電は、単に「安く作る」だけでは成功しません。ダイエーの挑戦と挫折が示したとおり、企画力、品質管理、販売戦略を同時に整えることが不可欠です。アイリスオーヤマや無印良品、イオン、ドン・キホーテの取り組みは、その条件を満たした結果、生活者からの信頼を獲得しているのです。

大手家電量販店の参入
近年、大手家電量販店も独自のSPA家電開発に乗り出しています。ビックカメラやヨドバシカメラ、ヤマダ電機などは、オリジナルブランドを展開し、価格と品質の両立を目指しています。たとえば、低価格ながら必要十分な機能を持つ炊飯器や掃除機、家事家電を独自ブランドで提供することで、メーカー製品との差別化を図っています。
これらの量販店は、店舗で得た顧客データを商品開発に活かし、消費者ニーズを即座に反映できる体制を整えています。また、保証や修理サービスも自社で提供することで、低価格商品でも安心して購入できる環境を整えています。量販店ならではの物流・販売網を活かすことで、短期間で商品を企画・改良・投入するスピード感も特徴です。
この動きは、メーカー主導の従来モデルとSPA家電の市場構造を大きく変えつつあります。消費者は、低価格帯でも安心して購入できる選択肢を持つようになり、量販店のプライベートブランドは、生活者にとって欠かせない存在になっています。

メーカー主導から小売主導へ
今後はさらに、生活者目線に立った差別化が求められます。耐久性やアフターサービス、省エネ・静音・安全機能の向上、サステナブル設計などが、消費者の選択に大きく影響します。量販店も延長保証や返品対応を強化し、安心して購入できる環境を整えていくでしょう。
このように、日本の家電市場はSPA化の波により「メーカー主導」から「小売・企画主導」へと構造転換しつつあります。ダイエーの挑戦と挫折、アイリスオーヤマや無印良品、イオン、ドン・キホーテ、そして量販店PBの取り組みは、この潮流の両面を象徴しています。
SPA家電は一時的な現象ではなく、日本の家電ビジネスを再編する持続的な潮流となりました。今後も、生活者目線の企画力と品質管理の両立が、SPA家電の成否を分ける重要なポイントになるでしょう。








