笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

ある住宅街の一角に、小さなパン屋があります。店名を仮に「ひだまりベーカリー」としましょう。扉を開けると、焼きたてのパンの香りがふわりと広がり、思わず肩の力が抜けます。

 

この店の特徴は、何と言っても店主の笑顔と気配りにあります。もちろん、商品のおいしさは言うまでもありません。店主のおだやかな人柄を表わすような、やさしい味わいが特徴です。

 

先日、常連の高齢の女性が訪れました。足取りが少し不安定で、買い物かごを持つのも大変そうでした。すると、店主はすぐに近づき、「今日は少し手伝いましょうか」と優しく声をかけ、パンをトレーにのせて渡し、袋詰めまで手伝いました。女性は驚いたように目を丸くし、でもすぐに笑顔になり、「ありがとう、本当に助かるわ」と小さな声でつぶやきました。

 

別の日には、小学生の兄妹が小銭を握りしめて訪れました。「今日のおやつに買いたい」と恥ずかしそうに話す二人に、店主は「どれでも好きなものを選んでいいよ」と言いながら、ほんの少しだけサービスしてパンを渡しました。子どもたちは目を輝かせ、うれしそうに駆け出していきました。その笑顔は、店主にとっても、まちにとっても小さな宝物です。

 

このパン屋の商いの姿勢には、ひとつの共通点があります。それは、商品を売るだけでなく、相手の気持ちや生活に寄り添うことです。忙しさの中でつい忘れがちな“人に喜んでもらう喜び”を、毎日、パンと一緒に届けています。

 

店は、利益や効率で評価されることがあります。しかし、まちの人々が日々足を運ぶ理由は、決してそんなことではありません。目の前の誰かを想い、心を込めて接する──その一つひとつの行動が店を“まちの灯り”にしているのです。

 

今日も「ひだまりベーカリー」の扉が開くと、焼きたてのパンの香りと、店主のやさしい心遣いが、まちの一角をふんわりとあたためています。あなたの店も、そんな“まちの灯り”であってほしいと願います。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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