笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「最低賃金を上回る時給を出しても、応募が来ない」
「採用しても、すぐに辞めてしまう」

 

そんな声を、商店街や中小企業の現場で耳にする機会が増えました。しかし嘆いてばかりでは、店の未来は拓けません。最低賃金の引き上げは、採用の質と設計を見直す絶好のチャンスです。

 

調査が示した「112円の現実」

 

帝国データバンクが2024年9月に実施した調査によると、企業が人を採用するときに最低限提示する時給は全国平均で1,167円。これは、同年の全国加重平均最低賃金1,055円より112円も高い水準でした。

 

 

業種別では金融・不動産が1,261円、建設が1,249円、サービス業は1,208円。地域では東京都が1,340円と突出し、神奈川1,277円、大阪1,269円が続きます。一方で青森984円、秋田990円など、地方にはまだ1,000円を切る地域も残ります。

 

数字が語るのは、地域差と業種差が採用力を左右するという事実。そして「最低賃金+α」を提示しなければ人材は集まらない、という現場の切実な声です。

 

小さな店が生き残る三つの視点

 

最低賃金の上昇は確かに負担です。けれども、数字に怯むだけではもったいない。商いの現場が今こそ取り組むべきは、賃金を“語れる条件”に変えることです。

 

1.採用条件に物語を持たせる
ただ「時給○○円」と並べても、人は動きません。その額にどんな意味があるのか――店が人をどのように大切にし、どんな成長の場を用意しているかを言葉にしましょう。

 

2.仕事に裁量と学びを組み込む
レジ打ちだけの仕事では、人は続きません。仕入れや売場づくり、POP製作など、小さな決定権をスタッフに託すだけで“やりがい”が生まれます。

 

3.定着を見据えた仕組みを設計する
1カ月・3カ月・半年と節目ごとの面談や、成功体験を共有できる場を持ち、その人の強みや成長した部分に焦点を当てましょう。人は「認められる」ことで成長します。

 

採用を逆風から追い風にする

 

鳥取県にある従業員30名の食品スーパーは、かつて最低賃金ぎりぎりの時給で募集していました。結果、応募は減り、遅番や早朝のシフトが回らない状態が長らく続いていました。

 

そこで同店は地域相場+100円を基準に設定し、仕事内容も刷新。品出しだけでなく売場づくりや発注補助など“小さな裁量”を盛り込み、求人票には「どんな一日を過ごせるか」を写真入りで掲載しました。

 

結果、応募数は倍増。半年以内の離職率も半減し、スタッフからの改善提案が増え、売場の鮮度も上がったのです。

 

店の魅力を磨く試金石

 

最低賃金の上昇は「逆風」ではなく、店の魅力を磨く試金石です。

 

・人が学び、成長し、誇れる場であるか
・その価値を時給にどう映し出すか
・そして語れる物語を持っているか

 

これらが、これからの商いに求められます。つまり、賃金は数字以上のメッセージです。「この店なら自分の時間を託せる」と人に感じさせることこそ、商人の真価ではないでしょうか。

 

人口減少の時代、採用の難しさは増す一方です。だからこそ、採用を“未来を描く仕事”に変えることが、私たち商人の使命なのです。

 

地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円――この数字を、あなたはどう読み解きますか。次の一歩を踏み出すヒントは、すでに店の中にあります。

 

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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