夜明け前の砂漠を切り裂くように、アメリカの有人航空機「ベルX-1」がオレンジ色の閃光を残して空へ突き抜けていきます。1947年、チャック・イェーガーが音速の壁を破った瞬間です。
大地に響く爆音とともに、彼は人類が「不可能」と呼んできた領域を越えていきました--。1983年のアメリカ映画「ライトスタッフ」は、この一瞬から始まります。

続く物語の舞台は、米ソ冷戦下の宇宙開発競争。アメリカは有人宇宙飛行士を選抜するマーキュリー計画を発表し、七人のパイロットが過酷な訓練に挑みます。体力も知力も極限まで試される彼らを待ち受けるのは、政治的思惑、家族の不安、失敗や死への恐怖。それでも彼らは一歩を踏み出し続けます。
本作の魅力は、彼らを単なるヒーローとして描かないところにあります。栄光だけではない苦悩と矛盾を丹念に映し出すことで、なぜ彼らが挑戦をやめないのか、その核心が見えてきます。恐怖を抱えながらも未知へ向かう意志――それこそがタイトルにある“ライトスタッフ”、すなわち「正しい資質」なのでしょう。
この映画を観るたびに、私自身も自分の生き方を問い直します。未来は常に不確かで、挑戦には失敗がつきものです。しかし、現状に安住せず、仲間を信じ、自らの限界を疑いながら一歩を踏み出す勇気。結果よりも挑む姿勢そのものを尊ぶ心。人が新しい地平を切り開くために欠かせないのは、この姿勢にほかなりません。
ラストシーン、青空に吸い込まれていくロケットの軌跡を見上げると、人間はこんなにも遠くへ行けるのかと胸が熱くなります。本作は単なる宇宙開発の歴史映画ではありません。恐怖と向き合い、未来へ飛び込むすべての人への、力強いエールです。
観るたび、この作品は私に問いかけます。あなた自身の「ライトスタッフ」は何か、と。今日もまた、その問いが背中を押してくれます。







