笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

時間投資に値するか

人生でもっとも貴重な資源は何か? そのひとつに「時間」があります。お金は失っても取り戻せますが、一日一日と流れ去る時間だけは誰にも補充できません。

 

だからこそ、人は職につくとき、自分の限りある時間をどの企業に投資するかを真剣に見極めます。ところが採用の現場では、企業がこの重みを忘れ、「人手さえ来れば」と条件だけを並べがちです。

 

そこに待っているのは、応募の減少と早期離職という現実。あなたが必要としているのは、人手でしょうか? 人材でしょうか? それとも人財でしょうか? 今こそ、「人手」「人材」「人財」という三つの言葉が示す意味を深く理解する必要があります。

 

人手──ただ空きを埋める発想

 

「人手が足りない」という表現は、仕事量に対して人数が不足している状態を指します。この発想では、働く人は条件さえ合えば代替できる存在にすぎません。

 

採用も教育も最低限で、結果として人手が得られても、その人は「より良い条件」が見つかれば辞めてしまうでしょう。人手不足の悪循環から抜け出せない理由がここにあります。

 

人材──磨けば光る“素材”として

 

「人材」という言葉には、成長の可能性が込められています。素材を育て、戦力へと鍛える意識がなければ、企業は未来を築けません。

 

学びの場や評価制度、挑戦を後押しする環境──これらが整って初めて、採用は“入口”から“スタート”へと変わります。こうした企業の経営者は「戦力化」という言葉を好んで使います。

 

しかし、こうした企業では、人は換えのきく材料にすぎません。くたびれてくれば、換えることは当たり前。

 

逆もまたしかり。人もまた企業をそのように見ています。愛社精神など育つはずもありません。

 

人財──共に価値を創るパートナー

 

さらに一歩進んで「人財」と書くとき、そこには敬意と信頼が宿ります。互いに感謝の心を持ち、助け合う関係があります。

 

利益をもたらす存在というだけでなく、企業理念を共有し、顧客や地域社会と絆を育む仲間です。同志といってもいいでしょう。

 

人を“財”として迎える姿勢こそ、定着率を高め、企業文化を強くします。

 

時間投資に応えるために

 

働く人が企業に投じる最大のものは「時間」です。この投資に応えられなければ、優れた人財は得られません。

 

必要なのは、給与や待遇だけではなく、「ここで働く意味」を語り、共感を得ることです。理念・ビジョンの共有、学びと成長を支える仕組み、挑戦を評価する文化──これらが揃った職場こそ、投資先として選ばれます。

 

ある地方スーパーの逆転

 

千葉県のあるスーパーマーケットは、10年前まで典型的な人手不足に悩んでいました。そこで同社が選んだのは時給アップではなく、“人財化”への転換です。二つのことに取り組みました。

 

・毎月、全スタッフが社長と直接対話する「価値共有ミーティング」を実施

・店舗運営に関する提案は必ず経営会議で検討し、採用されたアイデアには提案者の名前を掲示

 

これにより、従業員の意識は“雇われる人手”から“会社を動かす人財”へと変化。離職率は半減し、学生アルバイトの応募も絶えなくなりました。

 

「人に選ばれる会社」こそ強い

 

じつは、採用とは「人を選ぶ」行為ではなく、「人に選ばれる」行為です。

 

人を人手として扱えば条件競争に終始します。しかし、人材として育てれば未来への投資となり、さらに人財として迎えれば共に価値を創れます。

 

限りある時間を預かる責任を胸に、働く人が「ここで働きたい」と心から思える職場をつくる。その覚悟こそ、人口減少時代を生き抜く最大の競争力です。

 

時間を投資してくれる人を、単なる“人手”にとどめるのか。それとも“人財”として輝かせるのか。その選択が、これからの企業の命運を決めます。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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