笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

◆今日のお悩み

大成長を遂げた企業は、リスクを厭わずに挑戦した過去があるといいます。しかし、経営者として、自分の任期は安定飛行を続けたいです……。

 

経営を預かる立場として、「安定」を求める気持ちはよく理解できます。組織を乱すことなく、堅実に数字を積み重ね、任期を終える。それは一つの責任ある判断です。

 

けれども、企業という存在は、本質的に「変化する社会に応え続けること」によってのみ存続できます。したがって、「現状維持」という選択が、最も大きなリスクである場合もあるのです。

 

それを痛感させてくれるのが、ユニクロを展開するファーストリテイリングの挑戦の軌跡です。

 

1984年、広島県に1号店を出店したユニクロは、当初「郊外型の低価格衣料専門店」という地方発の新業態でした。しかし、創業者・柳井正さんはそのポジションに満足することなく、「世界No.1のアパレル企業になる」という壮大な志を掲げます。

 

とりわけ2000年代初頭からのグローバル展開は、大きなリスクを伴う挑戦でした。「日本で成功したビジネスモデルは海外で通用しない」と揶揄されるなか、アメリカ、中国、ヨーロッパと一歩一歩進出を続けていったのです。

 

当然、失敗も多く、当初の米国市場では店舗閉鎖を余儀なくされました。それでも柳井さんは「失敗は成功の必要条件である」と公言し、撤退ではなく“進化の機会”と捉えました。その試行錯誤の果てに、今では世界中で3,500店舗を展開する企業へと成長しています。

 

私がこの事例から学んだのは、「リスクを恐れるよりも、リスクを通じて未来を描く姿勢」が経営者にとって必要だということです。安定飛行の裏には、じわじわと環境変化への適応を遅らせる“慣性”が潜みます。

 

柳井さんは『一勝九敗』という著書の中でこう述べています。「経営とは、未来に起きる変化にいち早く対応するための“準備”である。準備とは、行動であり、挑戦である」。つまり、挑戦とは“現状を否定すること”ではなく、“未来への責任を果たすこと”なのです。

 

では、任期という限られた時間の中で、どうすればリスクに向き合えるのでしょうか。私が提案したいのは、「全社的な改革」ではなく、「象徴的な一歩」です。

 

たとえばユニクロでは、グローバル進出の前に「フリースブーム」という商品改革で新たな顧客層を獲得しました。一つのプロダクト、ひとつの販路開拓、あるいは人材登用の刷新など、社内外に「新しい風」を送り込む一歩を踏み出すだけで、組織は活性化します。

 

重要なのは、「この挑戦が、5年後・10年後の誰かのためになるか」という視点です。それはすなわち、あなたが“次の経営者へのバトン”をどう渡すかという問いにもつながっています。

 

#お悩みへのアドバイス

挑戦なき安定は危うし
一歩が未来を動かす
失敗こそ成長の糧
志でリスクを超えてゆけ

 

※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。2年間24回をもって連載は終了させていただきますが、毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。また、これまでのコラムはオンラインメディア「Wedge ONLINE」でもお読みいただけます。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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