時代は変われど、人の志は変わらぬ――。そう強く訴えかけてくるのが、安田淳一監督の映画「侍タイムスリッパー」です。
幕末から現代へタイムスリップしてしまった会津藩士・高坂新左衛門は、すべてが未知の令和の日本に戸惑いながらも、武士としての信念と矜持を失わずに、自らの居場所を切り拓いていきます。便利さと引き換えに、誠実さや筋目が薄れていく現代社会において、彼の存在は異質であると同時に、まっすぐで眩しくさえ映ります。
侍の世界では“敵を斬る”者だった彼が、現代では“斬られ役”の俳優として生きていく――その選択は、時代の流れに抗うのではなく、「今に自分を合わせる」のではなく、「今の中で自分を活かす」という姿勢そのものです。この主人公の生き方こそが、変化の激しい現代を生きる私たちが学ぶべき態度ではないでしょうか。
そして、そんな主人公を生み出した安田淳一監督自身もまた、「時代の流れに迎合せず、自分の信じる映画を、自分の手で作り切った」現代の侍です。撮影・編集・脚本・音楽までも一人で手がけ、資金も人手も足りないなかで、決して妥協せず、情熱と信念だけでこの映画を完成させた姿は、高坂新左衛門そのもの。
斬られることすら恐れず、逆境に笑って立ち向かう。そんな“覚悟ある者”がつくり、“覚悟ある者”を描いた作品だからこそ、ここまで観る者の胸を打つのです。本作は、変わりゆく時代を生きるすべての人に贈られた、「志を忘れるな」というメッセージです。
効率や流行に惑わされず、信じる道を貫く――それは商いにおいても、人生においても、最も強く、最もしなやかな生き方だと、この映画が静かに教えてくれます。







