笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「いまある当たり前を、もう一度疑ってみよう」とは、ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」の創業者・庄司昭夫さんがかつて語った言葉です。

 

現在、全国300店舗以上を展開し、ユニークな店づくりと、木製の大きなメニューで知られる「びっくりドンキー」。その原点は、1968年、岩手県盛岡市で開業した小さな店「ハンバーガーとサラダの店・べる」でした。

 

当時の日本では、まだハンバーグは家庭でも外食でも一般的ではなく、ファストフードといえばせいぜいカレーかラーメン。そんな中で庄司さんは、「日本人の食卓にもっと楽しくて栄養のある、新しい形を提案したい」と考え、わずか13坪のスペースで「べる」をスタートさせました。

 

開業当初、手ごねのハンバーグにライスとサラダを一皿に盛りつけ、木の皿で提供するワンプレートのスタイルは、他に例を見ないものでした。“安くてうまくて体にいい食事”を追求したこの業態は、じわじわと評判を呼び、客足は日を追うごとに増加。

 

 

しかし、庄司さんの商人としての真価は、単なるヒットに留まらず、「お客様の感動をどう継続させるか」にこだわり抜いた点にあります。庄司氏は、「味が良いだけでは不十分。空間も、接客も、すべてに物語がなければならない」と考えました。

 

その結果生まれたのが、テーマパークのようにデザインされた店舗、木のぬくもりを活かした内装、スタッフの笑顔、そして大きな木製メニューといった、五感で楽しむびっくりドンキー体験です。この「お客様中心」の哲学は、まさに商業界創立者・倉本長治が掲げ続けた顧客第一主義「店は客のためにある」の実践でもありました。

 

小さな店であることを
恥じることはないよ
その
小さなあなたの店に
人の心の美しさを
一杯に満たそうよ

 

 

この一文は倉本長治の同志であり、商業界で主筆を務めた岡田徹によるものです。びっくりドンキー全店に、額装されたこの一文が掲げられています。

 

「商売とは単なる物のやりとりではない。人の喜びをつくる尊い営みだ」と考えていた庄司氏は、「びっくりドンキー」という業態を、単なる飲食チェーンではなく、“喜びを届ける場”として捉えていたのです。この志は、商品や空間だけでなく、人づくりにも反映されていきました。

 

びっくりドンキーでは、社員の自主性と創造力を重視し、研修でも「どう売るか」ではなく「どう喜ばせるか」を問い続けました。毎朝の理念共有、読書会、現場での徹底的なOJT。こうした文化が、びっくりドンキーの「変わらない魅力」を生み出し続けているのです。

 

2011年、庄司さんは惜しまれつつこの世を去りました。享年68歳。しかし、その精神はびっくりドンキーの一皿一皿に、そして全国の店舗に息づいています。

 

 

いま、私たち商人も、変化の激しい時代の中で様々な課題に直面しています。人口減少、物価上昇、働き手不足——どれも現実です。

 

しかし、庄司氏の生き様が私たちに教えてくれるのは、「どんな時代でも、“人を喜ばせたい”という志があれば、商いは繁盛できる」ということ。お金も、立地も、流行も大切かもしれません。でもいちばん大切なのは、自らの仕事に“意味”を持たせること。

 

庄司昭夫という商人は、盛岡の15坪から始まり、全国に笑顔の食卓を届ける存在となりました。そのすべての原点にあったのは、「お客様に、驚きと感動を与えたい」というただ一つの想いです。

私たちも、今日からまた原点に立ち返りましょう。志ある商人であることを胸に、また一歩、歩み始めるのです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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