笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

◆今日のお悩み
事業の先行きが見通せず、社員の間に不満が広がっています。意思統一を図るために、何から着手すべきですか?

 

不透明な事業環境のなかで、社員の間に不安や不満が広がるのは自然なことでしょう。とくに変化の激しい現代においては、「将来が不安だ」という声が、あらゆる職場に満ちています。こうした状況下で経営者がまず取り組むべきことは、戦術の見直しや数字の改善ではなく、あらためて企業理念を掲げ直すことではないでしょうか。

 

理念とは、企業にとっての「北極星」のような存在です。日々の業務や市場の変化に追われるなかで、私たちは目の前の課題にばかり気を取られ、組織全体の方向性を見失いがちになります。そんなときこそ、経営者も社員も「何のためにこの事業を行っているのか」という原点に立ち返る必要があります。

 

その重要性を実践を通じて示しているのが、東京都品川区に本社を構える老舗パッケージメーカー、株式会社吉村です。同社は1932年の創業以来、日本茶を中心とした食品用パッケージを、90年以上にわたって提供し続けてきました。

 

吉村の価値は、単に包装資材を製造することにとどまりません。橋本久美子社長のもとで掲げられている企業理念は、「想いを包み、未来を創造するパートナーを目指します」というものです。この言葉には、モノづくりの枠を超えて、顧客や社会の想いを受け止め、それを未来につなげようとする深い意味が込められています。

 

この理念は、環境が厳しさを増す今だからこそ、社員が働く意味を照らす灯火となっています。日本茶市場の縮小や流通構造の変化、原材料費の高騰など、業界全体が難局に直面するなか、吉村でも「このままで大丈夫だろうか」「会社はどこへ向かうのか」といった不安の声が社員から多く寄せられていました。

 

そのような状況の中で、橋本社長が最初に着手したのは、業績回復のための数値目標ではありませんでした。むしろ、企業理念の再確認と社内への共有でした。「私たちは何を包んでいるのか」「何のためにこの事業を行っているのか」といった根本的な問いを社員とともに考える場を設け、理念を業務の隅々にまで浸透させていったのです。

 

理念を浸透させるには、トップダウンの発信だけでは不十分です。吉村では、「伝える」よりも「聴く」姿勢を大切にし、社員一人ひとりが理念を自らの言葉で語れるようになるまで、粘り強く対話を重ねています。橋本社長自身も現場の声に耳を傾けながら、理念を押し付けるのではなく、「共に問い、共に考える」場を築いています。

 

「完璧な答えを出すのではなく、問い続けることこそが、理念浸透の鍵です」と橋本社長は語ります。こうした姿勢が、理念を単なるスローガンから、現場で生きる“行動の指針”へと昇華させているのです。実際に営業活動や商品開発、人材育成においても、「それは想いを包んでいるか」「未来を創っているか」といった理念に基づく問いかけが、日常的に交わされているといいます。

 

社員の意思統一を図るうえで最も大切なのは、経営者が社員とともに志を語ることです。理念を掲げ、対話を通じてその意味を共有し続けることで、会社は単なる組織から、目的を同じくする“チーム”へと進化していきます。

 

「理念とは、未来からの呼びかけのようなもの。今、私たちが何をすべきかを教えてくれます」と橋本社長は述べています。経営に迷いが生じたとき、社員に不安が広がったときこそ、理念という旗をもう一度高く掲げ、社員とともに見上げたいものです。その旗のもとに集まる想いこそが、組織を動かし、未来を切り拓く力となるのです。

 

#お悩みへのアドバイス

自らの商いに理想を持ち
高い希望と志を掲げよう
それが自他の善に通じ
幸福につながるからである

 

※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。また、オンラインメディア「Wedge ONLINE」でもお読みいただけます。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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