笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

いま、日本人の食卓の土台であるコメが揺れています。2023年の猛暑、2024年初頭の震災による物流混乱、国の政策ミスによる需要と供給のバランスの崩れ、そして一部業者による投機的行動により、コメ価格は一気に高騰しました。5キロで5,000円近くにまで上がったその価格に、消費者の間では「ぜいたく品になった」「買い控えたい」という声すら聞こえてきます。

 

このような混乱のなかで、商人はどのように行動すべきか。いまこそ、「売る」だけではなく「伝える」ことに力を注ぐべきときだと私は思います。なぜなら、商人とは単なる商品供給者ではなく、暮らしと文化を守る存在だからです。

 

コメがなぜ値上がりしたのか、その背景を知らない人は少なくありません。「米不足」と騒がれる一方で、実際は政府の備蓄米放出や輸入米の増加により、供給量そのものは安定しつつあるのです。こうした事実を店頭で丁寧に伝えるだけで、買い手の不安は和らぎます。

 

たとえば、「このお米は昨年の猛暑の影響で収穫量が減ったため、今は高値になっています。しかし政府の備蓄放出が始まり、今後は落ち着く見込みです」というひと言を添えるだけで、お客様は安心して買い物ができます。商人が果たすべきは、こうした“価格の理由”を正しく伝える橋渡し役なのです。

 

「選ぶ理由」を明示するのが商人の価値

 

いま、市場には輸入米の選択肢も広がっています。アメリカ、ベトナム、韓国、台湾など、世界各地からのコメが流通しはじめ、価格も国産の半額以下というケースもあります。

 

しかし、ただ「安い」だけでは選ばれません。商人には、「なぜこの米を仕入れたのか」「どんな料理に合うのか」といった“選ぶ理由”を明示する責任があります。たとえば、「この輸入米はタイ料理や中華料理と相性がよく、パラっと炊き上がる特長があります」といった一言が、商品を価値あるものへと昇華させます。

 

コメは単なる食材ではなく、「食文化の中心」です。味、用途、価格、それぞれのバランスを考え、最適な選択肢を提案すること。それこそが、顧客の信頼を勝ち取る“品揃え力”なのです。

 

店主の「顔」が商品に価値を与える

 

今の時代、情報はネットでも得られます。ですが、商人にはネットにはない“説得力”があります。それは「人間味」です。店主自身がどのような想いで商品を選び、どのようにお客様と向き合っているのか——その姿勢が、商品に付加価値を生みます。

 

たとえば、玄米と白米の保存方法の違いや、精米から日数が経つことで味がどう変化するかといった豆知識を、お客様に語れる店主は、まさに“米の語り部”です。「あの人がすすめるなら間違いない」と思ってもらえる存在にこそ、商人の理想像があります。

 

つまり、“価格”ではなく“人格”で選ばれる商人になること。今こそ、「売る人」ではなく「伝える人」としての本領が問われています。

 

地元とつながる「物語」を届ける

 

もし、地元の農家とつながっているなら、それを積極的にお客様に伝えてください。「このお米は○○町の△△さんが、手間ひまかけて育てたものです」と写真を添えるだけで、商品は“地域の物語を載せた贈り物”に変わります。

 

その際に有効なのが、商人の“約束=PROMISE”です。「安心・安全・顔が見えるお米を届ける」という信頼の約束を、店頭POPやSNSなどで発信するのです。大手には真似できない、地域密着の強みを最大限に活かしましょう。

 

いま、商人が果たすべき行動は次の4点です。

 

・価格動向の発信→ お客様の不安を払拭する情報提供
・選択理由の明示→ 店の視点が顧客の納得を生む
・店主の思いを可視化→「人から買いたい」を実現
・地元農家との連携強化→ “顔の見える関係性”で差別化

 

これらはすべて、理念(PHILOSOPHY)をもとに商品(PRODUCT)と人(PERSONALITY)が物語をつくり、信頼(PROMISE)で結ばれる——拙著『売れる人がやっているたった四つの繁盛の法則』が提唱する“新しい4P”そのものです。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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