昨日は「アンゾフの成長戦略」についてご紹介しました。アンゾフが提唱した成長マトリクスにおける「多角化戦略」は、企業が新たな市場に対して新たな製品やサービスを投入する戦略であり、最もリスクの高い成長戦略とされています。しかし、事業の安定化や新たな収益源の創出、外部環境の変化に備えるために、多くの企業がこの戦略を積極的に取り入れています。
アンゾフは多角化を、「関連多角化」と「非関連多角化」に分類しています。関連多角化とは、既存事業と技術や顧客層、流通経路などに何らかの共通点を持つ新分野への展開であり、自社の強みや資源を活かしやすい点が特徴です。一方、非関連多角化は、既存事業とほとんど関連のない分野への進出であり、経済的な相互依存性は薄いものの、事業ポートフォリオの分散によってリスク軽減が期待されます。
ここでは日本企業の具体的な取り組みをみながら、アンゾフの多角化戦略を学びましょう。
1. パナソニックの介護事業参入(関連多角化)
パナソニックは、家電やAV機器の分野で培ったセンサー・ロボティクス技術を活かし、介護ロボットや高齢者向け見守りサービスなどの福祉・介護分野に進出しています。これは、高齢化という社会課題を背景に、既存の技術資産を活用して新たな市場ニーズに応える「関連多角化」の好例です。同社は住宅設備との統合によるスマートホーム化も進めており、ヘルスケア・介護の領域を中長期的な成長分野と位置づけています。
2. ユニクロ(ファーストリテイリング)のライフスタイル化戦略(関連多角化)
ファーストリテイリングは、衣料品というコア事業に加えて、近年では「LifeWear」というコンセプトを掲げ、衣類を通じて日常生活全体を快適にするブランド戦略を展開しています。また、グループ企業の中にはセオリーやGUといった異なるターゲット層のブランドも含まれ、事業ドメインを広げています。これは顧客層と販路を共有しながらブランドの多様化を図る戦略であり、関連多角化に分類されます。
3. ソフトバンクグループの投資事業(非関連多角化)
一方、ソフトバンクグループは通信事業で培った収益を元に、ビジョン・ファンドを通じてAIやバイオ、ロボティクスなどの分野に大規模な投資を行っています。これは、通信という本業とは直接関係のない分野への進出であり、「非関連多角化」の代表的な事例です。成功すれば大きな成長が見込める反面、投資判断の難易度や外部環境の変動による影響も大きく、極めて高度な経営判断が求められる分野です。
4. セブン&アイ・ホールディングスの事業再編と再多角化
セブン&アイは、コンビニ(セブン-イレブン)を中核に、総合スーパー(イトーヨーカドー)、金融(セブン銀行)、ネットスーパー、ECなど様々な業態を展開してきました。しかし近年は、収益性の低い事業からの撤退・整理と同時に、食品宅配やヘルスケア分野への進出を進めており、「多角化の見直しと再構築」を図っています。これは、変化する生活様式に対応しつつ、企業としての持続可能性を確保するための戦略的多角化の取り組みといえます。
このように、多角化戦略は企業の経営基盤を強化し、変化の激しい現代においてリスク分散と成長機会の創出を同時に狙う手段として、極めて重要な意味を持ちます。しかし、どの分野に進出するか、また自社とのシナジーをどう創出するかといった観点から慎重な分析と準備が不可欠です。アンゾフの理論は、このような意思決定を整理するうえで有効なフレームワークであり、現代の日本企業にも十分に活用されています。