笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

アンゾフの成長マトリクス

「アンゾフの成長マトリクス」をご存じでしょうか。生みの親のイゴール・アンゾフ(Igor Ansoff)は、戦略経営論の分野で多大な影響を与えたアメリカの経営学者です。彼は、企業の成長戦略を体系的に分析・整理したことで知られます。

 

アンゾフの成長マトリクスは、「市場(既存・新規)」と「製品(既存・新規)」の組み合わせにより、①市場浸透、②市場開拓、③製品開発、④多角化という4つの基本戦略を示しています。それぞれの戦略を、現代の小売業の事例と結びつけながらみてみましょう。

 

 

① 市場浸透戦略:既存市場 × 既存製品

市場浸透は、現在の顧客層に対して既存の商品やサービスの販売量を増やす戦略です。2025年の小売業においては、リアル店舗における顧客体験の向上や、デジタルツールを活用したリピーター施策が重要となっております。

たとえば、地域密着型スーパー「ツルヤ」は、信州の地元客に支持される店舗運営を行っています。商品構成やPOP、接客など、日常使いの利便性と地域性に特化し、顧客満足度を高めています。さらに、会員カードの活用により購買履歴を分析し、顧客ごとの傾向に合わせた特売やイベントを行うことで、来店頻度の向上を図っています。こうした取り組みは、市場浸透の典型例といえます。

 

② 市場開拓戦略:新市場 × 既存製品
市場開拓は、既存の商品・サービスを新たな市場に展開する戦略です。国内における少子高齢化や都市集中に対応するため、地方への出店やインバウンド需要の取り込み、海外市場の開拓が検討されることが多くなっています。

たとえば、ドラッグストア大手のウエルシアは、首都圏を中心に展開していた店舗網を地方都市や郊外へと広げ、高齢化社会に適した調剤併設型店舗を増やしています。また、外国人観光客向けには多言語対応や免税販売の強化を行い、インバウンド市場の開拓にも取り組んでいます。

さらに、越境EC(海外向けEC販売)においても、日本の食品や日用品の人気を背景に、多くの小売事業者がアジア市場への展開を進めています。国内の限られた成長余地を補うためには、こうした「市場開拓」が不可欠です。

 

③ 製品開発戦略:既存市場 × 新製品
製品開発戦略は、既存の顧客に向けて新しい商品やサービスを提供するアプローチです。小売業においては、オリジナル商品の開発、サブスクリプションサービス、DXの導入などがこれに該当します。

たとえば、コンビニ大手のセブン-イレブンでは、PB(プライベートブランド)商品に力を入れており、近年では冷凍食品や健康志向の商品を強化しています。これは、既存顧客の「健康的な食生活」「時短ニーズ」に応える新たな製品開発の一例です。

また、書店チェーンの「TSUTAYA」は、書籍販売にとどまらず、カフェ併設型店舗やライフスタイル雑貨を取り扱うことで、新たな消費体験を創出しています。さらに、アプリを通じた予約・購入・レビュー機能の充実など、デジタル施策による製品・サービスの高度化も進んでいます。

 

④ 多角化戦略:新市場 × 新製品
多角化は、最もリスクが高い一方で、最も高い成長ポテンシャルを持つ戦略です。特に2025年の小売業では、異業種連携やデジタル分野への進出、地域課題への対応など、新たな付加価値を創出する動きが活発になっています。

例としては、イオンが展開する「イオンスマートキッチン」のような、食材販売とレシピ提案、調理サポートを一体化したサービスがあります。これは、食品販売の枠を超えた生活支援型の新事業であり、生活者の健康意識や時短ニーズを捉えた多角化の好例です。

また、一部のスーパーでは、高齢者向けの買い物代行や移動販売サービスを開始するなど、「流通業」から「地域インフラ」への脱皮を図っています。このような取り組みは、社会課題の解決を通じて、新たな市場を開拓するものといえます。

 

総じて、2025年の小売業においては、従来の大量販売・画一的サービスからの脱却が求められており、いかにして顧客との関係性を深め、生活に寄り添った価値を提供できるかが鍵となっております。アンゾフの成長マトリクスは、環境変化に対応した多角的な戦略立案を行う上で、有効なフレームワークです。企業は、自社のリソースと強みに照らし合わせながら、4つの成長戦略を柔軟に組み合わせることで、持続可能な発展を実現することができるでしょう。

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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