笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

◆今日のお悩み
大きな影響力を持っていた経営者が急逝し、わが社は羅針盤を失いました。新しい企業風土をつくっていく必要があると思います。前例はありますか。

 

経営者の高齢化が止まりません。企業信用調査会社、帝国データバンクの調査によると、日本の社長の平均年齢は60.5歳。33年連続の上昇で過去最高を更新中といいます。

 

また、同社の別の調査によると、「経営者の病気、死亡」を主因とする倒産が増えています。2024年は前年比38件(13.7%)増の316件となり、はじめて300件を超えました。全倒産に占める割合も年々高まり、かつては1%台にとどまっていましたが、2013年に2%台となり、ここ2年は3%台に上昇しています。経営者の急逝は他人事ではありません。

 

では、「新しい企業風土」をつくる必要はあるのでしょうか。結論から申し上げると、否となります。

 

企業風土とは、その企業が持つ独自の環境や文化、価値観などの要素によって形成される組織の性格や性質のこと。企業理念を基礎とし、創業者の志を起点とします。それは、たとえ経営者が代替わりしようと、あだやおろそかにしてはならないものです。

 

創業者の志が受け継がれ、企業を救った例があります。

 

日本の衣料品店で初めてセルフ販売方式を導入した伝説の繁昌店「ハトヤ」の店主、西端行雄・春枝夫妻には、毎日欠かさぬ習慣がありました。朝礼で従業員と声を併せて、「誓いの詞(ことば)」という企業理念を唱和したのです。

 

「人の心の美しさを商いの道に生かして、ただ一筋にお客様の生活を守り、お客様の生活を豊かにすることを我々の誇りと喜びとして、日々の生活に精進いたします」

 

その後、志を同じくする同業者らと連帯して、総合スーパー「ニチイ」を設立。西端行雄さんは社長に就任します。多くの協力者と顧客の支持を得て、ナショナルチェーンへと発展していきました。

 

しかし、戦時中の従軍で負った負傷が災いし、志半ば66歳で急逝します。副社長が2代目社長に就任すると、新たな企業哲学を制定し、社名を「マイカル」に変更。業容を拡大しつつ次々と大型店を出店していきました。

 

新経営陣のもと、「誓いの詞」はいつしか朝礼で唱和されなくなったといいます。しかし、西端夫妻の薫陶を受けた一部の社員たちは「誓いの詞」を忘れることなく、その教えを胸に業務に励みました。

 

2001年、膨らみすぎた泡がはじけるように同社は経営破綻を迎えます。そのとき再建の手を差し伸べたのが、年上の西端を兄のように慕い、共に学び、互いに競ったイオンの岡田卓也さんでした。

 

岡田さんは再建を検討する際、誓いの詞が今もマイカルに息づいているかを確認したといいます。小さな灯のように、それは大切にされていました。「それならばマイカルは大丈夫だ」と岡田は再建を決断したのです。

 

今日、西端さんがつくった企業はイオンの一部となって救われ、誓いの詞は継承されています。「真実慈愛」を自らの行動指針とし、「仏の商人」と言われた男が育んだ企業風土は今も生き続けているのです。

 

#お悩みへのアドバイス

自らの商いに理想を持ち
高い希望と志を掲げよう
それが自他の善に通じ
幸福につながるからである

 

※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。また、オンラインメディア「Wedge ONLINE」でもお読みいただけます。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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