2024年秋、熱田神宮への最寄り駅の一つ、名鉄神宮前駅前に、新たな観光商業施設が開業しました。街道沿いの長屋をイメージした3棟の木造平屋建て(延べ床面積約1,100㎡)に、16の常設店、ワゴン販売、キッチンカーから成る「あつたnagAya」です。
まちの未来を見据え
観光まちづくり強化
東海エリアのまだ知られていない特産品をはじめ、地域の魅力を再発見できる飲食店が軒を連ね、そこにあつた宮宿会のメンバーも出店。田中さんが営む「妙香園」もその一つです。
「私が子どもの頃は百貨店で、その後は専門店ビルになりましたが、あまり人が溜まる場所ではありませんでした。けれど開業以来、多くの人でにぎわい、周辺の商店街にも回遊しています。このように観光まちづくりは、雇用の創出と人口減の中で経済規模を維持していくために重要性を増しています」(田中さん)
これまでにも熱田区には、熱田神宮駅前地区まちづくり協議会(2018年設立)、熱田湊まちづくり協議会(2020年設立)が立ち上がり、それぞれがまちづくりビジョンを公表し、その中には観光まちづくりを産学官民連携で推進することが明記されていました。ところが、熱田区全体で観光まちづくりをテーマとする横断的な組織はありませんでした。
そこで、あつた宮宿会が中心となり、それぞれのまちづくり団体の関係者が発起人となって、オール熱田で観光まちづくりについて意見と情報を交換するプラットフォームとして「あつた観光まちづくり連盟」を発足。2024年2月の発足式には61もの団体が加入し、あつた宮宿会の花井会長が連盟会長に、田中副会長が連盟副会長に選ばれています。
望む未来は
自らの行動で創る
発足10年を超えたあつた宮宿会。常に新たな挑戦をしてきた同会では、すでに次の10年に向けた取り組みも始まっています。
一つは、歌川広重の「東海道五十三次」にも描かれている「宮 熱田濱ノ鳥居」の再建です。同会では実現をめざして資金を毎年蓄え、地域住民とともに再建活動に取り組んでいます。
「観光名所という点ばかりでなく、子どもたちに地元への誇りを持ってもらうために、渡し場を整備した宮の渡し公園に浜鳥居をもう一度復活させたい」(鈴木さん)
もう一つの挑戦が、エリアマネジメント会社の立ち上げです。あつた宮宿会は任意団体ゆえに自由な活動はしやすいものの、法人格を持たないがゆえの制約もあります。その弱点を解消し、より主体的にまちづくりにコミットする組織として「あつた宮宿エリアマネジメント株式会社」をこのたび設立しました。
「当会では2019年から、熱田神宮近くの熱田区役所南側にある未利用地を元旦三が日の初詣駐車場として活用する社会実験に、ボランティアとして取り組んでいます。今後、駐車場として整備されたとき、新しい組織であれば指定管理を受けることができます」(田中さん)
最後に、自身の10年後について田中さんに尋ねた。そのとき田中さんは50代半ば。経営者として脂が乗っている頃でもありますが……。
「あつた宮宿会の活動では、自分はもう用済みでしょう。10年前、我々もそうしてもらえたように、若い世代にどんどん自由にやってもらいたい。それだけ、若い世代が育ってきている。それこそ当会の10年の成果でもあります」
こう言い切れるところに、あつた宮宿会の真価があり、まちづくりの要件があります。