笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

商人たちのまちづくり[前篇]

約1900年の歴史を誇り、名古屋屈指の観光名所として知られる「熱田神宮」があるまち、名古屋市熱田区。その魅力を内外に伝えようと活動する「あつた宮宿会」は、様々なバックグラウンドを持つ有志メンバーによって構成される全国でも珍しいまちづくり団体です。

 

源頼朝と言えば日本史上の偉人。清和源氏の一流たる河内源氏の源義朝の三男として生まれ、義朝が平治の乱で敗れると伊豆国へ流されます。そこで以仁王の令旨を受けると、北条時政、義時など坂東武士らと平家打倒の兵を挙げ、鎌倉を本拠地として関東を制圧。初の武家政権・鎌倉幕府の初代征夷大将軍となりました。

 

では、彼の出生地はどこでしょう。それが本稿の舞台、現在の愛知県名古屋市熱田区だと知る人は多くありません。

 

同地を全国に知らしめるのが、年間700万人以上が参拝に訪れる熱田神宮です。熱田の宮宿(みやのしゅく)は、歌川広重の代表作「東海道五十三次」にも41番目の宿場として描かれ、伊勢湾の海の幸に恵まれた魚市場として栄えました。

 

また、宮宿と三重県の桑名宿の間は東海道で唯一の海路です。悪天候により船の出航が滞ると旅人たちはこぞって宿泊するため、旅籠の数も250軒と多く、東海道最大の宿場町として栄えてきました。

 

しかし、先の戦争での空襲により、歴史的建造物のほとんどが焼け落ちてしまいます。その後、この地は熱田神宮以外、全国的にはあまり知られない存在になりました。

 

志を一つにする
多彩なメンバーが結集

 

そこで、歴史、文化、自然など多くの魅力的な観光資源の存在を知らしめ、宿場町であった頃のにぎわいを取り戻したい――そんな思いを持つ有志によって結成されたのが「あつた宮宿会」です。

 

発足は2014年4月。中心となったのは、2013年10月に開催された「東海道シンポジウム宮宿大会」を成功させた実行委員会のメンバーの面々。地元の食の老舗をはじめ、大学(名古屋学院大学)、地域NPO法人(堀川まちネット)といった多様なメンバーによって結成されました。

 

チャーターメンバーである地元の食の老舗とは、ひつまぶしの元祖「あつた蓬莱軒」の鈴木淑久さん(初代会長)、名古屋めしの代表格きしめんの老舗「宮きしめん」の安井友康さん、熱田神宮参拝客に愛されてきた銘菓「きよめ餅総本家」の新谷滋規さん、尾張銘菓の「亀屋芳広」の花井芳太朗さん(2代目会長)、「良いお茶は心を潤す(茗茶潤心)」を家訓とする茶舗「妙香園」の田中良知さんの5人。

 

あつた宮宿会はその後、名古屋市、熱田区役所、そして熱田神宮との連携を果たし、産官学が一体となってまちづくり、にぎわいづくりを推進。現在では、会社経営者、従業員、個人事業主、NPO法人、大学など、熱田に縁のある多彩なメンバー約100人が在籍しています。

 

熱田区以外のメンバーも多く、現にあつた宮宿会で広報委員長を務める鈴木瑛司さんも、隣の区の在住ながら活動の中核を担う。年齢層も幅広く、下は10代から上は70代まで、主には30~40代が活躍しています。

 

「『このまちに生まれてよかった』と子どもたちが思えるまちにしたい」と、田中良知さんは活動への思いを語ります。

 

テーマは
熱田を盛り上げよう!

 

発足から10年超、あつた宮宿会では熱田の歴史や文化を現代に伝え、地域の活性化に取り組んでいる。その具体的活動の一つが、2015年10月から取り組む「あつた朔日市(ついたちいち)」です。

 

1月を除く毎月1日の午前9時半頃ごろに、熱田神宮または秋葉山圓通寺で、同会会員が飲食や雑貨、花などを扱う店を20店ほどが出店。チャーターメンバーの老舗4社(きよめ餅、亀屋芳広、妙香園、あつた蓬莱軒)が共同開発した「あつた宮餅」は行列ができる人気商品となっています。

 

「名古屋学院大学など会員の大学のゼミ生たちがボランティアで手伝ってくれ、卒業後も手伝いに来てくれて、入会した若者もいます。こうした世代を超えた仲間ができるのも会の魅力です」(田中さん)

 

このほか、毎年11月にはかつての宮宿のにぎわいを取り戻すべく、「宮の浜市」を宮の渡し公園で開催。後述する「名古屋あつたカルタ」によるカルタ大会、熱田にまつわる偉人を通じて歴史を伝える「あつた紙芝居」、和太鼓や獅子舞などさまざまな催しを2014年以来続けており、熱田区主催「あったか!あつた魅力発見市」の会場の一つとして行政とも連携しています。2020年の年のコロナ禍中には、各地で行事が中止に追い込まれました。そこで、三密対策を十分に施した上で同年と翌年8月の2回にわたって、「あつた夢花火」と銘打って15分間シークレットで花火を打ち上げました。

 

さらに2022年からは新たな夏祭り「あつた夢おどり」を開催。毎年8月、盆踊りをはじめ多数の模擬店やキッチンカーでにぎわい、子どもたちの夏の思い出づくりはもちろん、老若男女が楽しめる夏祭りとなっています。

(つづく)

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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