昭和の石田梅岩と呼ばれた経営指導者、倉本長治には互いを切磋琢磨する仲間たちがいました。戦時中の言われなき罪で公職追放となった倉本に発表の場を与えようと創刊した「商業界」の初代社長を務めた新保民八、そして共に商業者の指導にあたった岡田徹です。
岡田徹は名文家としても知られました。彼が、ある団体のために記した文章があります。書かれたのは1955年。戦後10年、経済、政治、社会が大きく動き、誰もが進むべき道を模索している時代です。
その団体とは日本専門店会連盟。「真商道」の思想のもとに全国の商業者が集う団体であり、その始まりは1936年にまでさかのぼります。少し長いのですが、岡田が書いた「日専連信条」を引用します。
日専連信条
小売商人は消費者の身近かに居て、職能としての深い知識と、親しい隣人としての誠実さで、消費者の経済をしっかりと守り、その日常生活をより豊かにして暮しよい明るい社会をつくることが、与えられた使命である。その故にこの職業が消費者のために在るものであり、社会的に意義のあることを自覚し、我れ小売商人なりの誇りと喜びとに生涯をかけて悔いない。
商店は、この職業の真価が発揮されて、小売商人が在ることの意義が広く消費者に認められる場である。同時に、「お客さま」と愛称される消費者が、商品とその代価との取引を超えて、小売商人の美しい誠実さと深い思いやりとに心打たれ、友情の交換が行われる「信頼の場」である。
消費者が求めるものは、良品正価の保証と買物の愉しさである。小売商人が消費者に信頼されるのは、この保証と愉しい買物の中に流されているまごころのゆえである。従って、無駄のない経費とつつましやかな生活とで、消費者の負担を出来得る限り軽くするよう努めることが、正しい報酬と永遠の繁昌をもたらす唯一の道である。
日専連は小売業を国民経済の上に重要な職能であると確信し、小売商人としての人格をみがき、たゆまざる精進と親類附合による結合のもとに、経営の近代化をはかり協同の活動を推進し、奉仕の理想である真商道を実現せんとする組織である。
岡田がこのように訴えたように、店とはお客様と商人の「友情」の交換が行わる場所、誠実さと深い思いやりを土壌として育つ「信頼」という花が咲く場所です。昨今、社会問題化しているカスタマーハラスメント(カスハラ)を倉本や岡田が知ったら、いったい何というでしょうか。
さて、あなたの店には、どんな花が咲いているでしょうか。