笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

立春を過ぎ、日いちにちと春めいてくる季節。それは値上げの季節でもあります。とりわけ庶民が値上げを痛感するは食品です。帝国データバンクによると、2025年2月の飲食料品値上げは1656品目で、前年同月から30品目・1.8%増加。食品分野別では「加工食品」(589品目)が最多となっています。

 

 

2025年4月までに予定されている値上げ累計品目数は8867品目、前年同時期に比べて9割増のペースで推移。2025年の値上げ品目数は、現状のペースが続いた場合、早ければ4月にも累計で年1万品目を突破すると予想されています。年間では、前年(1万2520品目)を大幅に上回る1.5~2万品目前後に到達する可能性があると分析しています。

 

一方、上がらないのは賃金。報道では、どこそこの会社の新卒初任給が40万円を超えたとか景気のいい話が聞こえてきますが、それはごく一部の話。日本人の賃金は、過去30年間にわたり足踏みを続けています(内閣府「令和4年度 年次経済財政報告」)。

 

直近においても、2024年5月まで26カ月間にわたって実質賃金が下がり続け、直近2024年11月の統計でも4カ月連続のマイナスとなりました(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。実質賃金とは名目賃金から物価変動の影響を除いた平均賃金をいいますから、昨今のインフレ(物価上昇)が名目賃金の伸びを上回っているわけです。

 

 

先日、日本小売業協会の新年賀詞交換会に出席していたところ、日本商工会議所の小林健会頭が2種類のインフレについてスピーチをされていました。物価が継続的に上昇する状態を指すインフレには、「良いインフレ」と「悪いインフレ」があるというものです。

 

悪いインフレとは、コストプッシュ型のインフレのことで、原材料や人件費などのコストの上昇が引き金となります。売上は変わらずにコストだけが増えるために、企業はコスト増を製品価格に転嫁します。しかし、実質賃金は低迷したままですから、消費者の需要は低迷し、価格の引き上げは逆に売上の減少を招く可能性があります。

 

一方、良いインフレとは、デマンドプル型のインフレのことで、需要の増加によって引き起こされます。消費者の需要が先に高まり、それが売上の増加につながります。売上が増えれば企業は賃金を上げる余裕が生まれ、これがさらなる需要の拡大を促すという好循環を生みます。

 

コスト増を起因とするか、需要増を起因とするか、この違いによりインフレがもたらす未来は大きく異なるわけです。小林会頭は現状をコストプッシュ型インフレと断じ、消費者の需要を喚起することこそ事業者の使命と提言されました。そして、その原動力こそ中小企業にあるというわけです。

 

 

さて、私たちは商品が売れないと、これまで簡単に値下げをしてきました。しかし原価高騰が止まらない今日、それは自殺に等しい行為です。私たちがするべきことは、価値を高め、それを消費者に伝える努力を続けることです。仮に価値を高められても、それが消費者に伝わっていなければ、価値は存在しないのと同じです。価値は常に顧客側にあるのです。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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