笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

喫緊の課題、カスハラ対策

「顧客や取引先などからのクレーム・言動のうち社会通念上不相当なものであり、その手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されるカスタマーハラスメント。東京都で4月からカスハラ防止条例が施行されるなど、企業もその対応に迫られています。

 

では、どのような業種でカスハラ被害が多いのでしょうか。

 

帝国データバンクが2024年6月に調査したところ、直近1年以内に自社もしくは自社の従業員がカスハラや不当な要求などを受けたことがあるか尋ねたところ、「ある」とした企業は15.7%。業界別でみると、小売(34.1%)がトップとなり、金融(30.1%)、不動産(23.8%)、サービス(20.2%)と主に個人を取引の対象とする業界が比較的高い割合で並びました。取引ではありませんが、介護福祉サービスでも多いのではないかと察せられます。

 

 

では、個人を相手とする業種はどのように対処すべきでしょうか。その答えを教えてくれる一冊を読みました。「お詫び文」作成のスペシャリストでもある著者、鈴木タカノリさんによる『クレーム対応・カスハラ対策マニュアル作成のコツ』に、次のようなくだりがあります。

 

〈大多数は自社・自店にとって大切な顧客である。このカスハラ対策を「苦情を言ってくるような顧客は排除する」という見方でとらえないでください。顧客は苦情を言う権利はあります。スタッフとのやり取りで、最初は正当な苦情を伝えているうちに段々と感情的になり、最後には悪質なクレームやカスハラに発展するのです。むしろ、このようなエスカレーション型のカスハラの方が現場では圧倒的に多いのです〉(本書70ページ)

 

続けて、「だからこそ、顧客との適切なコミュニケーションスキルを高め、カスハラに至る前に事態を収拾する術を身につけておくべき」と提言。まさに同感で、企業は顧客なしに存在できない以上、顧客を「敵」にしてはならないのです。

 

本書では、こうした顧客観に立ちつつ、カスハラ対策マニュアル作成の要点を解説。しかも、カスハラ被害が多い飲食業、小売業、コールセンター、行政窓口別に詳細がまとめられています。当該の業種はもちろん、他の業種にとっても参考となるでしょう。

 

では、カスハラ防止は誰のためにするのでしょうか。

 

第一に、その最前線に立つ従業員の身心を守るためですが、それにとどまらず、企業、消費者、さらには社会全体のためにもなることが本書では理解できます。カスハラ対策の第一歩を踏み出す際に不可欠な「対策マニュアル作成」のポイントと、カスハラへエスカレートさせない「クレーム対応」の勘どころがわかる一冊です。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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