笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の主人公は、江戸時代の出版人、蔦屋重三郎。大田南畝、恋川春町、山東京伝、曲亭馬琴、北尾重政、鍬形蕙斎、喜多川歌麿、葛飾北斎、東洲斎写楽など多数の作家、浮世絵師の作品刊行に携わり、化政文化隆盛の一翼を担った“江戸のメディア王”です。

 

しかし今日、その末裔たちが危機に直面しています。

 

全国出版協会・出版科学研究所によると、2023年の紙と電子を合わせた出版物推定販売金額は1兆5,963億円(前年比2.1%減)で、2年連続の前年割れ。なお、2024年上半期も7,902億円(前年同期比1.5%減)にとどまっています。

 

出版業界の売上は、1996年まで拡大基調で推移していましたが、1997年の消費税率引き上げ(3%から5%へ)により初の前年割れを記録。その後はインターネットの普及や活字離れ、少子高齢化などにより縮小が続いており、出版業界の経営環境は危機に瀕しています。

 

帝国データバンクによると、2023年度決算の損益状況が判明した出版社675社を分析すると、36.6%にあたる247社が「赤字」となり、構成比は過去20年で最大。さらに、前年度から「減益」(29.5%)となった企業を合わせた「業績悪化」の割合は66.1%に達し、過去最大を記録しています。

 

 

コロナ禍での巣ごもり需要により、電子書籍などのデジタルコンテンツ需要が拡大したものの、書店での販売部数の減少を補うまでには至りませんでした。さらに印刷用紙やインクなどの仕入れコスト、人件費、物流費といった各種コストの上昇も業績悪化に大きく影響し、特に雑誌媒体が大幅に落ち込んでいます。

 

また、書店で売れ残ったものを定められた期間内であれば返品できる委託販売も制度疲労を起こしています。返品率は3~4割超で高止まりしており、出版社の物流費や在庫負担増の要因となっています。

 

帝国データバンクによると、2024年に発生した出版社の倒産および休廃業・解散件数は62件。2年連続で60件を超えており、コロナ禍前の水準に戻ったことがうかがえます。私が勤めた商業界が倒産したのは2020年3月。コロナ禍が本格化する直前のことでした。

 

 

直近の動向を見ても、育児誌の先駆けである月刊誌「母の友」をはじめ、老舗鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」やライトノベル文芸誌「ドラゴンマガジン」が2025年に相次いで休刊となることが発表されています。紙媒体の出版物の減少に歯止めがかからない状況なのです。

 

長く出版社に勤務し、そこで多くを学んできた私にとって、出版社の危機には胸が痛みます。危機に直面しているのは出版社だけではありません。書店、取次を含めた書籍・雑誌流通が変わらなければなりません。

 

さて、出版人の嚆矢、蔦屋重三郎の墓碑銘には「為人志気英邁 不修細節 接人以信(その人となりは、志、人格、才知が殊に優れ、小さなことを気にもかけず、人には信頼をもって接した)」とあることをご存じでしょうか。志、人格、才知——末裔である私たちも、これらを磨かねばなりません。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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