笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

親しい人の死に直面するといつも、きちんと感謝を伝えていただろうかと思います。「感謝する心は、人間社会のなかで心穏やかに生きる最高の発明品」とは、精神科医・随筆家の故・斎藤茂太先生の言葉。このように、感謝はたくさんの効果をもたらします。

 

心理学者のロバート・エモンズと、マイケル・マッカローが行った有名な実験があります。ちょっとしたことでよいので、感謝できることを5つ書き、それを続けてもらうというものです。

 

すると、感謝できることを毎日考えたグループは、何もしなかったグループに比べて幸福感が高くなり、人に対して優しくなり、さらに、よく眠れるようになったそうです。また、毎週考えたグループは、より多くの運動をするようになり、身体的な不調も減少したという報告があります。つまり、感謝することで「幸福度が高まる」「体調がよくなる」「人間関係がよくなる」「生産性が高まる」など、さまざまな良い効果が期待できるというのです。

 

感謝の効用はこれだけではありません。チームビルディングにも効果があり、メンバーのスキルや経験を最大限に引き出し、目標を達成できるチームを構築することができます。たとえば、この店のように。

 

 

東京・浅草、日本一の料理道具街「浅草かっぱ橋商店街」で100年以上にわたって商いを続ける飯田屋には「感謝の時間」という習慣があります。6代目店主・飯田結太さんは自著『浅草かっぱ橋商店街リアル店舗に奇蹟』で、感謝の効用について説明してくれています。

 

感謝の時間とは、朝礼と終礼の一日に2回、感謝の出来事を思い返し、口に出して皆で共有するしくみです。朝礼では静かに目をつぶって60秒間、出勤する前の間にあった出来事を思い、心の中で感謝します。「元気に出社してくれた皆にありがとう」など、どんなことでもかまいません。そして、その中で最も大きく感謝したことを一人ずつ発表しあいます。

 

終礼では、一日を思い返して感謝すべきことを、また60秒間目をつぶって考えます。そしてその日いちばん感謝した出来事を発表し、皆でシェアするのです。「〇〇さんが笑顔で挨拶してくれたから、元気に仕事がスタートできました」など、やはりどんなことでもかまいません。

 

感謝の時間を始めた当初、飯田さんは感謝すべきことが思い浮かばず、60秒間を持て余していたそうです。どれだけ自分が日々を当たり前の感覚で過してきたかを思い知らされます。それでも毎日続けていると、徐々に感謝すべきことに“気づく力”が育っていきます。「何気なく過ごしている日常が感謝であふれているありがたさに気づく」(本書88ページ)ようになります。

 

・従業員たちが元気に出勤してくれること
・お客様が店に来てくれること
・取引先が商品を届けてくれること

 

当たり前のことなど何一つなく、すべてが感謝の種であることに飯田さんは気づくようになります。感謝の心をもって人と接して物事に向き合うと、感謝の種は大きく膨らんでいきます。小さな感謝の気持ちがより大きな感謝の気持ちを育み、優しさの循環が始まるのです。飯田屋が本当の繁盛店となった瞬間です。

 

「従業員に感謝を日々伝えるようになると、従業員からも感謝の言葉をもらう機会が増えていきました。飯田屋は、日々の些細な出来事に感謝し、お互いを大切に想いあえる組織でありたいと願います。仲間が大切に思うものをみんなで大切にする――それができれば、何が起きても立ち向かい、助けあえる強い組織ができるはずです」(本書89ページ)

 

そう、それが現在の飯田屋です。さらに感謝は気づく力を養います。お客様の目に見えない心に想いを寄せることができます。だからこそ、飯田屋はどのスタッフも素晴らしい接客ができるのです。

 

 

さて先日、親しい人の霊前で手を合わせていると、心の底から湧き上がってきたのは強い感謝の念でした。「感謝は、過去を意味あるものとし、今日に平和をもたらし、明日のための展望を創る」とは、アメリカの作家、メロディ・ビーティの言葉です。感謝の心が人を育て、感謝の心が自分を磨くのです。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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