「人間には三つの死がある」
講演でしばしばお話しするこの言葉を知ったのは、数あるディズニー映画の中でも評価の高い「リメンバー・ミー」という作品でした。一度目は心臓が止まった時、二度目は埋葬や火葬をされた時、三度目は人々がその人のことを忘れてしまった時という三つです。生きている人たちの中に、自分のことを覚えている人がもう誰も残っていない時、人は永遠かつ最終的な死を迎えます。
さて、ディズニーランドの創設者であり、アニメーション作家であるウォルト・ディズニーは、アニメに登場するキャラクターの影にこだわり、光の方向と影の位置関係にこだわり、何度もアニメーターにやり直しを命じたことで知られています。
それまで影にこだわるアニメなどなかったこともあり、アニメーターたちは口々に「影など誰も気にしませんよ。お客様は影を見に来ているのではなく、ミッキーマウスを観に来ているのですから」と反論したそうです。
すると、ウォルト・ディズニーは「そうではない。何百人、何千人の中には影に気づく人が必ずいるはずだ。その人たちに気づかれたとき、ディズニーアニメの品質の高さがあらためて認められるだろう。百人中百人が気づくことをするのは当たり前で、千人に一人しか気づかないことをするのが大切なので。ディティールこそすべてだ」といったと言われています。
「神は細部に宿る」という言葉があります。ディテール(細部)にこだわった丁寧な作品には作者の強い思いが込められており、まるで神が命を宿したかのごとく不朽の作品として生き続けるという意味と理解しています。
さて、あなたにとってアニメの影にあたるものは何でしょうか。それに徹底的にこだわったとき、人は三度の目の死から自由になれるのかもしれません。