笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所


「買い場」という言葉をご存じの読者も多いことでしょう。私が知るかぎりでは「売り場」のことを「買い場」と表現する企業が二つあります。他にあったら教えてください。

 

一つは百貨店の三越伊勢丹グループであり、もう一つは総合ディスカウントストアのドン・キホーテです。ともに総合業態ですが、前者は老舗であり後者は新興企業、さらには前者と後者では店舗運営方法が異なります。しかし、どちらも売り手目線ではなく、顧客の目線に立った店づくりを目指していることを表明する点で共通しています。

 

供給より需要が上回っていた時代であれば、商品を揃えておけば売れました。ですから売り場というより「置き場」のような店でも、それなりに営業ができたのは事実です。しかし供給と需要が逆転するとそうもいかなくなります。いかに顧客の視点に立ち、お客様が買いやすく、欲しくなるような品揃えと売場演出が求められになります。小売業はその実現をめざして進化してきたと言ってもいいでしょう。

 

ここに新たな競合が登場して、小売業は新たな進化を求められることになります。新たな競合とは実店舗を必要としないEコマース。品揃え、利便性、迅速性、検索性、そして価格において実店舗小売業は劣勢に追い込まれていきました。前述の2社が売り場を「買い場」と呼ぶのも、前者はホスピタリティ、後者はワクワク・ドキドキを強みとしようという意思の表れです。

 

では、あなたが営む小さな実店舗では「売り場」をなんと呼んでいますか。言葉には一つひとつに意味があり、そこには発する者の考えが反映されるものです。品揃え、利便性、迅速性、検索性、そして価格において、Eコマースはもちろん大手小売業や大型商業施設に劣る店ならば同じ土俵で争うべきではありません。

 

小さな店には、小さな店ならでは魅力や強みがあるはずです。それは店を、同じ価値観や嗜好を持つ人たちを惹きつける「集い場」とすることです。さらには、人が心豊かな人生を送るために欠かせないコミュニティとして「憩い場」となり、そこにひたることで自身を高められる「学び場」となりましょう。

 

小売業の歴史において「売り場」と呼ぶ段階をリテール1.0とするならば、「買い場」はリテール2.0。その先にある新たな豊穣の地「リテール3.0」をめざして歩みを進めていきましょう。

 

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笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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