笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「老舗」とは100年以上の社歴を数える企業をいい、世界には7万社を超える老舗があり、その半分以上が日本にあります。では、なぜ日本には老舗が多いのでしょうか。次のような理由が考えられます。

 

・家督相続制が伝統的に根づいていた
・島国であるため他国からの影響が少なかった
・平和が長く続いた
・利益追求にとらわれない身の丈経営が浸透していた
・顧客ニーズに真摯に向き合ってきた
・時代に合わせた変化を厭わず、柔軟に対応してきた

 

 

しかし、日本の老舗が苦境に立たされています。帝国データバンクによると、創業・設立から100年以上の業歴を有する老舗企業の倒産は、2024年に145件発生したとのこと。前年の96件から約1.5倍に急増し、リーマン・ショックが起きた2008年を大幅に上回る高水準に達しています。

 

業種別にみると、小売業が43件で最多となっています。スーパーマーケット(5件)を筆頭に、百貨店(2件)も含めた大型商業施設が相次いで姿を消しています。さらに呉服小売(4件)、料亭(3件)など昔ながらの業種も目立ちます。

 

 

他の業種では、製造業が42件と高水準。郷土料理や加工品などを手がける水産食料品製造(4件)のほか、2024年12月にユネスコ無形文化遺産として日本酒や焼酎など「伝統的酒造り」が登録された清酒製造(4件)、地元の銘菓を扱う生菓子製造(3件)や米菓製造(3件)などがありました。小売業と製造業の2業種で、全体の約6割を占めています。

 

倒産要因ではほとんどが「販売不振」(124件)。加えて、物価高や後継者難など、昨今鮮明になりつつある経営リスクが直撃したケースも数多く確認されています。

 

長い業歴は、その企業が市場のなかで生き残り続けた証明であり、業歴100年を上回る「老舗」というブランド力は大きな強みを持っています。一方で、老舗企業は小規模事業者が多くを占めており、近年深刻化している物価高や後継者難に対応できなくなるケースが増えているのでしょう。

 

古くして古きもの滅び
新しくして新しきものまた滅ぶ
古くして新しきもののみ永遠不滅

 

これは商業界草創期の指導者、新保民八の遺した言葉。この言葉の前半は事業の“在り方”を、後半は “やり方”を指します。在り方が成熟していても、やり方が時代と顧客ニーズからずれ、革新性を失えば滅びます。やり方が革新的でも、在り方が未熟ならやはり滅びるのです。

 

唯一、永遠にして不滅たりうるのは「古くして新しきもの」。在り方が成熟している者のやり方が時代と顧客ニーズの変化に対応し、革新性を持ち続ける場合のみであると新保は説いています。

 

在り方とは事業理念であり、事業の核となる技術。やり方とは、時代と顧客の変化へ対応する革新力にほかなりません。中核事業からの撤退の是非に悩む前に、自らの事業を、変わるべき方向を教えてくれる時代と顧客ニーズをもう一度見つめ直してはいかがでしょうか。

この記事をシェアする
いいね
ツイート
メール
笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

新刊案内

購入はこちらから

好評既刊

売れる人がやっているたった4つの繁盛の法則 「ありがとう」があふれる20の店の実践

購入はこちらから

Social Media

人気の記事

都道府県

カテゴリー