「仕事って面白いですね。日々学びがあります」
こう書かれた年賀状を送ってくださったのは、広島県庄原市で書店「ウィー東城店」を営む佐藤友則・恵ご夫妻。同市は人口およそ3万人。昭和の頃の半分に人口が減った地域で、彼の店は暮らしを支える店としてさまざまなチャレンジを続けています。冒頭の言葉はまさに彼の実感でしょう。それは訪れてみればわかります。
さて、昨日調べものをしていて、久しぶりに「グローバル従業員意識/職場環境調査」を確認しました。これは、世界4大会計事務所の一つPwC(PricewaterhouseCoopers)が毎年発表するもので、労働者が自身の仕事や職場環境をどのように捉えているかを探っています。副題を「希望と不安」とし、50の国と地域の56,000⼈以上の従業員から回答を得ています。
これは2023年調査で、各設問に対して「強く」または「中程度」同意する回答者の比率をグローバル全体と日本に分けて比較したもの(「将来の展望」については設問に対して「分からない」という回答者の比率となっています)。将来、会社、職場、上司という観点から仕事に対する意識を表わしています。
「将来の展望」で両者の差が顕著なのが「今の方針を継続した場合、会社は10年存続する」という設問。「分からない」と回答する日本の労働者はグローバル全体と比較すると3.4倍(34%)もいます。今のままでは続かないというももやもや不安が見てとれます。
「会社に対する見方」でも、それぞれの回答に日本の労働者の会社への信頼感の低さが見られます。特に危惧されるのは、「職場での自分の行動/ふるまいは会社の価値観、方向性と一致している」という回答の低さ(25%)です(グローバル全体では60%)。職場の4人のうち3人が不一致の行動/ふるまいをしています。これでは組織の力は削がれます。意図的に一致させないのか、一致したくでもできないのか、さらに分析する必要があります。
「職場での行動」では、「新しいスキルを学び/開発する機会を積極的に探す」意識の低さが気になります(20%)。年功序列の日本的慣習はすでになく、一度就職すれば未来永劫安泰という時代は過去のものです。一日の多くの時間を過ごす職場や労働で、仕事を通じて学ぶことができなければ、成長はありません。
「職場環境・上司」では不信感が見られます。「上司は仕事を効果的に行うために必要な知識、スキル、能力を持っている」が31%にとどまっている点がそれにあたります(グローバル全体は52%)。結果、「仕事への満足度」はグローバル全体が56%に対して日本は29%。経済協力開発機構(OECD)加盟国24カ国中23位と低迷しています。
こうした日本の労働者のネガティブな意識や劣悪な職場環境とパラレルな関係にあるのが、労働生産性です。2023年のそれを他のOECD加盟国と比較してみましょう。時間当たり労働生産性は56.8ドル(5,379円)でOECD加盟38カ国中29位、一人当たり労働生産性は92,663ドル(877万円)でOECD加盟38カ国中32位となっています。この低さが、私たちの多くが経済的豊かさを実感できない理由の一つです。
日本の労働生産性が低い理由として、さまざまなところから次の点が指摘されています。
・付加価値を生み出す力が弱い
・長時間労働の常態化
・デジタル化の遅れ
・モチベーションの低下
・給与体系が時間基準であること
・アナログな作業環境
・業務の属人化
・社員の睡眠不足
・非正規雇用の拡大
これらに加えて、会社の価値観、方向性と従業員の職場での行動/ふるまいの不一致にこそ原因があると私は想います。その理由は、企業が唱える事業理念と実際の価値観、方向性の不一致にあるのではないでしょうか。どれほど美しい事業理念が掲げられていても、実際がそれと異なるなら、従業員の労働意欲は下がり、労働意識は後ろ向きになるのです。
最後に、長くなりますが同社の分析を引用します。あなたが労働者なら自身の意識、あなたが経営者なら御社の従業員の意識と比較してみてはいかがでしょうか。
変革か低迷か
労働者の3分の1が、「今のままでは10年後に会社が経済的に成り立たなくなる」と答えています。特に、Z世代の従業員は最も悲観的で、49%が「変化しなければ自分の会社はあと10年生き残れない」と答えています。日本だけで見ても4分の1が「生き残れないと答えており、世代が若いほうが悲観的なのは同じ傾向です。
従業員は不安になっている
景気悪化の不安や一部の地域での失業率の上昇にもかかわらず、全回答者の26%が「今後1年以内に転職する可能性がある」と答えています(2022年の19%から上昇)。この数字は若い従業員ほど高く、Z世代の35%、ミレニアル世代の31%が転職を計画しています。日本だけで見ても20%が「転職する可能性あり」と回答しており(2022年の14%から上昇)、若い世代ほどこの傾向が強い点も同様です。
経済的な困難が増加
世界中の従業員14%が毎月の生活費の支払いに苦労しており、42%が「ほとんど何も残らない状態で出費を賄っている」と回答しています(2022年の37%から上昇)。5人に1人が、「本業の他に仕事をしている」と回答しています。日本でも同様な傾向で、16%が「支払いに苦労」、39%が「何も残らない」と答えています(2022年は36%)、ただし本業の他に仕事をしている比率は7%で、14人に1人の割合にとどまっています。
スキルの不公平感が増加
53%の従業員が、「自分の仕事には専門的なトレーニングが必要だ」と回答し、昨年の49%から増加しました。これに対し、日本では昨年の36%から31%に5ポイント減少し、グローバル全体との差が広がっています。専門的なトレーニングを受けていない労働者は、専門的な労働者よりも経済的な困難に直面する可能性が高く、自分のスキルがどのように変化するかについて明確な意識を持っていない可能性があり、これらは全て所得不平等を助長する恐れがあります。この点は日本においても同じ傾向を見ることができます。
労働者はAIを恐れていない
AIによって雇用が失われるという見通しにもかかわらず、回答者はAIがもたらすプラスの影響を、マイナスの影響よりも多く挙げています。「AIは仕事の生産性や効率を上げるのに役立つ」という意見が最も多く、31%の回答者が表明しています。日本も同じく生産性、効率に役立つという意見が、「AIが私の仕事に影響を与えるとは思わない」というニュートラルな意見と並び26%で最も多くなっています。
失われた30年を象徴する日本の調査結果
日本において仕事への満足度が他国に比較して低いことは、かねてから課題視されていましたが、本調査ではその要因とも見て取れるような事象が明らかになっています。日本の労働者は職場環境や会社に対する信頼感や共感、満足度が低く、自己主張や積極的な行動、将来に対しての自分なりの意見、展望も不足していると言えるでしょう。