◆今日のお悩み
取引先とメールや電話だけでやりとりをしている部下が心配になります。「足で稼ぐ」営業の時代はとうの昔に終わってしまったのでしょうか。
「こたつ記事」という言葉があります。取材者が現地に赴いて調査を行ったり、対象者に直接取材したりして得る一次情報によらず、インターネットのウェブサイト、ブログ、SNS、テレビ番組などの他媒体で知り得た二次情報のみで書かれる記事をいいます。インターネットなどIT技術の発展、さらには生成AIの出現がその後ろ盾にあります。
こうした“こたつ化現象”は取材に限らず、いまや各分野で見られます。「取引先とメールや電話だけでやりとりをしている」という営業スタイルを心配するお悩みもその一つでしょう。あなたの職場でも「こたつ営業」が広がっていないでしょうか。
しかし、手ではなく「足で書く」のが取材の鉄則であるように、「足で稼ぐ」のが営業をはじめとするあらゆる仕事の基本です。なぜなら、二次情報には故意か過失かは別として偽りや錯誤が紛れ込むし、一次情報には実際に接しなければ得られない気づきがあるからです。気づきからは、ときとして宝物が得られるものです。
新しい技術は道具として使いこなす分にはいいでしょう。しかし、それだけを頼ってはなりません。現場・現物・現実を重視する三現主義からしか、価値あるものは生まれないからです。
東京・羽村市を拠点にスーパーマーケットやレストランなどを営む「福島屋」は、無添加など安全・安心やおいしさ、生産者の顔が見える食品などをコンセプトに、他店では容易に得られない本物を扱います。240坪の本店には、選び抜かれた約6000アイテムが並んでいます。
「私たちは、まっとうな日々の食事のあり方を伝えていく食のセレクトマーケットです」と語るのは、長年にわたって全国の産地へ足を運び、生産者と生活者、そして販売者のすべてに有益な食を追求する店主の福島徹さん。その商いのあり方を「三位一体」と表現します。
かつて、青森で大根を自然栽培する農家を訪れたときのこと。清らかな雪解け水をたっぷり吸った上質な大根に惚れた福島さんは、たびたび通うようになります。そして生産者と商売の売り買いを超えた関係性を築いていきました。
福島さんが初めて出会った頃は、4万本の収穫のうち1万本が多少の傷やサイズの不揃い、見栄えが悪いといった理由で出荷できず、大半は価値を生みませんでした。それを目の当たりにした福島さんは、その企画外品を使って切り干し大根をつくることを勧めました。
それまで家庭用の道具でほそぼそとつくっていましたが、福島さんは設備投資を提案して機械を購入し、自然栽培の安全・安心な切り干し大根へと生まれ変わらせたのです。作付けは10万本に増え、切り干し大根は従来の200倍もの量が出荷・販売されるようになりました。
もし、福島さんが生産地という現場を訪れず、出荷できない規格外品という現物を見ず、家庭用の道具でほそぼそとつくる現実を知らなければ、宝物は得られなかったでしょう。こたつを出て、足を運ぶことを奨める理由です。
#お悩みへのアドバイス
売るということは
お客様との心の交流であり
人と人との付き合いである
現場・現物・現実から始めよう
※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。また、オンラインメディア「Wedge ONLINE」でもお読みいただけます。