「山田五郎 オトナの教養講座」は私が初めてYouTubeでチャンネル登録した番組。時計、西洋美術、街づくりなど幅広い分野で博識ぶりをみせる編集者・評論家であり、テレビ東京系列の長寿番組「出没!アド街ック天国」でもレギュラー出演者として「街」への深い造詣を披露されています。
その山田五郎さんが「東京商店街グランプリ」(東京都産業労働局、東京都中小企業振興公社主催)の基調講演に登壇されると知り、聴講してきました。「商店街よ、永遠に」というテーマで、これからの時代、商店街に求められるものについて、独自の視点と豊富な知識で1時間。満員の聴衆を惹きつけるものでした。
東京商店街グランプリとは、都内商店街の優れた取り組みや商店街振興への貢献が顕著な個人をたたえる今回で19回を数える表彰制度。都内にはおよそ2400の商店街があり、その中にあって注目に値する対象を表彰するのですが、今回の「商店街の部」「個人の部」それぞれのグランプリ受賞者が昔からよく知る親しい方々という喜ばしい回でもありました。
ここでは授賞式前で上の空だったかもしれない二人のために、山田さんの講演のポイントをまとめてみます。私からのお祝いの気持ちをこめて贈ります。
山田さんは「よい街」の特徴として、①個性、②多様性、③自然な新陳代謝の3点を挙げています。個性は当然として、多様性とは様々な職業と幅広い世代で構成されていること。そして自然な新陳代謝の対極にあるものとして東京各所で進む「再開発」を指摘しました。商店街を脅かす二つの問題の一つが再開発だと山田さんはいいます。自然な新陳代謝に対して「強引な新陳代謝」である再開発は次の弊害をもたらすのだ、と。
1. 街を均質化してしまう
再開発のコンセプトがどれも似たり寄ったりであり、新しく開業した商業施設にはどこに同じ店が入居し、新鮮味に欠けている。こうした均質化が街の個性を奪っていく。当然、再開発により家賃は上がり、そこには資本のある企業の店しか出店できない。これが均質化を加速させる。
2. 家賃を上げてしまう
家賃が上がれば、若い才能はそこにいられなくなる。新しい流行をつくりだす若者は家賃の安い街に集うからだ。たとえば、かつて渋谷よりも家賃の安かった原宿・表参道がそうだった。そこには、若者文化を発信する拠点として糸井重里さんなど多くの若い才能を輩出した原宿セントラルアパートがあり、多くのDCブランドが起業した同潤会アパートがあった。それが再開発により、若い才能の入居を許さない場所に変わった。
3. 街の密度を下げる
昔の商店街は道幅も狭く、向かいの店と会話ができるほど、人と人の親密度があった。そこには自然とコミュニケーションが生まれる。編集者時代の山田さんが携わった名雑誌「Hot-Dog PRESS」の編集室も極小で、だからこそ編集者どうし、カメラマン、フリーライター、イラストレーターという雑誌づくりを担う者の創発が起こった。社屋を建て替え、広い編集室となってから同誌の勢いはなくなっていった。再開発も防災という錦の御旗をもって街の密度を下げていき、人と人の距離を離してしまったのだ。
4. インフラが追いつかなくなる
再開発にはタワーマンションが付きものだ。しかし、人はタワマンの一室のみで生きるわけではない。通勤もすれば、車も運転するし、子どもなら学校にも通うだろう。タワマンが増えれば、それらインフラはすぐにキャパオーバーになる。
5. いずれ一斉にスラム化する
高度経済成長期に雨後の筍のように乱立した団地では現在、住民の高齢化により限界集落化が進んでいる。平均価格が1億円を超えた都内のタワーマンションも、それと同じことを繰り返すだろう。高額の修繕費を払えない居住者も増えるだろうから、タワマンのスラム化が起こる。
6.悪所をなくしてしまう
再開発で目の敵にされるのが治安のよくないエリアであり、不良がたむろするところといった「悪所」だ。それらを再開発によってなきものにしようとする。しかし「悪所は街の干潟」と山田さん。干潟を失った海は死ぬし、悪所を失った街も死ぬ。悪所をなくしても悪はなくならない。悪所によって悪を見える化して管理することが必要。
このような趣旨を豊富な事例と体験談でお話しくださった山田さん。原発不明がんであることを先ごろ公にしたばかりであるのに、聴衆に伝えようというエネルギーは衰えていませんでした。貴重な1時間。ありがとうございました。