企業信用調査会社の帝国データバンクによると、2024 年上半期の物価高倒産は484件。過去最多のペースで増加しており、企業収益の改善には価格転嫁をいかにスムーズに進められるかが喫緊の課題となっています。
2024年8月2日には、中小企業庁は、受注側の中小企業の立場で価格交渉のしやすさや価格転嫁の現状についての評価を発注側企業ごとに公開しました。評価の低い企業に対して大臣名で指導や助言を実施していくなど、政府全体で価格転嫁の促進を後押ししています。
一方で企業にとっては、原材料価格やエネルギー価格の高止まり、最低賃金の引き上げも控える人件費の負担増など、取り巻く環境は厳しい状況が続いています。コスト上昇分すべてを商品・サービスへ転嫁することが望ましいとわかっていても、国内消費の動向などを鑑みると慎重な姿勢を取らざるを得ない声も多いのが実態です。
同じく帝国データバンクが、自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているかを尋ねたところ、コストの上昇分に対して「多少なりとも価格転嫁できている」企業は78.4%と8割近くにのぼりました。内訳をみると、「2割未満」が19.6%、「2割以上5割未満」が18.6%、「5割以上8割未満」が20.2%で2割を超え、「8割以上」が15.5%、「10割すべて転嫁できている」企業は4.6%でした。
他方、「まったく価格転嫁できない」企業は10.9%と前回調査(2024年2月)から1.8ポイント減少。「厳しい競争環境があり、コストを転嫁すれば顧客を失ってしまう」などの意見も聞かれ、依然としてまったく価格転嫁ができていない企業が1割を超えています。
また、コスト上昇分に対する販売価格への転嫁度合いを示す「価格転嫁率」は44.9%。これはコストが100円上昇した場合に44.9円しか販売価格に反映できず、残りの5割以上を企業が負担していることを示しています。
価格転嫁率が高い主な業種では、「化学品卸売」(65.0%)や「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(63.0%)などで6割を超えています。他方、一般病院や老人福祉事業といった「医療・福祉・保健衛生」(19.8%)が2割を下回ったほか、「娯楽サービス」(21.7%)、「金融」(25.8%)、「農・林・水産」(27.3%)などで価格転嫁率は低水準となっています。
「価格において、最良の戦略は最低価格をつけるのではなく、高価格でもそれにふさわしい価値があるように市場提供物を差別化することである」とはフィリップ・コトラー。単に価格転嫁をするのではなく、商品の価値を高め、それにふさわしい高価格をつける取り組みがいま求められています。