まず、17世紀後半のルイ14世の絶対王政時代に活躍したフランスの童話作家、シャルル・ペローが書いた一人の少女を主人公とする童話を紹介しましょう。
灰かぶり娘の物語
病気で母を亡くし、父が連れてきた新しい家族と一緒に暮らすことになった少女がいました。彼女は新しい母親につらい仕事を押しつけられたあげく、2人の姉にいじめられて、「灰かぶり」と呼ばれるようになります。
ある日、王様が3日間にわたってパーティを開催し、そこで花嫁を探すという話が舞い込みます。少女もパーティに参加したいと願いましたが、継母は無理難題を条件に認めてくれません。少女のまっすぐな姿をいつも見ていた小鳥たちの協力で解決するものの、結局「着ていく服がない」「薄汚い」と言われ、継母や姉たちは少女を置いてパーティへ行ってしまいました。
悲しみに暮れる少女を見た小鳥たちは、金銀のドレスやきらきらした靴を持ってきました。それを身に着けた少女はパーティに参加します。美しい姿の少女を見た王子は、彼女をダンスに誘います。夜更けまで二人は踊り続けます。
少女に興味を持った王子は、彼女がどんな人か知るために家までついて行こうとします。しかし、正体を知られると大変なので少女は隙を見てドレスを着替え、すばやく家に帰ることで身を隠しました。
パーティ最後の日、王子は帰り道を油でべとべとにしていました。少女が階段を駆け下りたときに靴が引っかかって、脱げてしまいます。そうして彼女の「金の靴」を手に入れた王子は「この金の靴がぴったり履けるお姫様を、お妃にしたい」と宣言しました。
足がきれいな姉たちは大喜びで立候補するも、サイズが合いません。すると、継母が姉たちにナイフを手渡し、親指を切り落として靴を履こうとしました。
しかし、小鳥たちが嘘を暴いて「本物のお嫁さん」へ王子を誘導します。少女が靴を履くと、サイズはぴったり。王子様と少女は結ばれ、幸せに暮らしましたとさ。
生みの親はドラッカー
さて、長々と童話を紹介しましたが、タイトルは「シンデレラ」。ディズニー映画の原作です。ペローは「赤ずきん」「長靴をはいた猫」「眠れる森の美女」など、世界中の子どもたちに愛される作品を多く書いています。
この童話を思い出したのは、先日、ある経営者と話していて発せられた「シンデレラ商品」という言葉からでした。経営者とは東京の巣鴨地蔵通り商店街で衣料品店「マルジ」を営む工藤敬司・工藤秀治兄弟。同社のシンデレラ商品とは1993年に発売開始以来、売れ続ける「赤パンツ」です。
シンデレラ商品(製品)とは、経営学の父、ピーター・ドラッカーが1964年の著作『創造する経営者』で商品(製品)を11種類に分類し、その一つとして定義しています。灰を被ったシンデレラように社内や店内(継母家族)では目立たちませんが、一部のお客様(小鳥たちや王子様)が価値を認めている商品のことです。そして、それを磨き上げれば大ヒットにつながります。
マルジの赤パンツも、一部のお客様からのリクエストにこたえて、仕入れを実現させて売場責任者がいたからこそヒットしました。さらに、赤パンツを改良改善し続けたからこそ、看板商品として売れ続けています。
あなたの店にも必ずシンデレラはいます。それに気づき、磨けるかどうか。顧客視点が大切なのはそれゆえです。