中国山地のほぼ真ん中にある広島県庄原市東城町。そこに本書の著者が店主を務める書店「ウィー東城店」はあります。開店した1998年、町には1万2000人が暮らし、ブックスタンドを含めると4軒の書店があったそうです。しかし今日、人口は7000人を下回り、高齢化率は50%に迫り(48.7%)、他の書店はすでにありません。
外見はどの地方にもある郊外型書店に見えるその店は、町の人たちがなんでも相談に訪れる「よろず屋」と表現したほうがしっくりときます。100坪の店内には書籍に化粧品、文具、CD、タバコ、食品が並び、レジカウンター前には雑貨コーナーとコーヒースペース。店の一角に小さな美容室があり、敷地内にはベーカリー、コインランドリー、玉子の自動販売機と精米機が並んでいます。
本を起点に、情報と暮らしに役立つ居心地のよい場所がととのえられた、高齢者が気軽に相談を持ちかけ、子どもたちが笑顔を取り戻す不思議な場所です。家庭、職場や学校とは異なる価値を生む“第三の場所”といっていいでしょう。
なぜ、鳥が疲れた羽を休める止まり木のような、誰もが立ち寄りたくなる店ができたのでしょうか。詳しくは本書に譲りますが、著者が修業先の書店での思い出をつづったくだりを紹介しましょう。そこに答えの一つがあります。
「いまじん黒川店の閉店は夜の12時だったので、仕事が終わるのはいつも1時近くだっ た。それでもぼくはまったく疲れないどころか、仕事がたのしくてしかたなかった。どれだけ同じことの繰り返しだとしても、そこには必ず発見があり、それがますますぼく仕事へとのめり込ませた。
それはつまり、人間への興味だった。この人はこんな本を買うか この人は結局、買わないんだ、あの人は昨日も来ていたな。あの人はほしい本はなさそうだけど、ずっと棚を見ているな。
ぼくは業務をこなしながら、お客さんの一挙一動をずっと見つめていた。そして、どうすれば、彼らがもっと喜んでくれる仕事ができるだろう、と考えていた。」(本書31ページ)
・人間への興味
・どうすればもっと喜んでくれる仕事ができるか
商人に欠かせない要件を彼は修業先ですでに身に着けていたことがわかります。この二つ、あなたも持ち合わせているでしょうか。