商売十訓――商業界創立者、倉本長治が生涯をかけて提唱した商人の行動訓は、一つが14字に揃えられた10篇からなり、ツイッターと同じわずか140字に商いに大切なことがすべて込められています。それは“商いの小宇宙”と言ってもいいかもしれません。そのもとは、1961年にまとめられた「商業界ゼミナール誓詞」。それを唱和しやすいように14字に揃えたのが商売十訓なのです。
損得より先きに善悪を考えよう
商業界ゼミナール誓詞の原典は「商売は損得を離れることは出来ないが、これからは善悪をこれに優先せしめよう」。私はこれを「不変の原理」と表現しました。
倉本はこうも言っています。「商売は損得より善悪のほうが大切である。採算がとれるかという問題よりも、善いことか、悪いことかを考えるのが根本である」。
創意を尊びつつ良い事は真似ろ
原典は「商売に創意工夫を尊重し、なお善いことは研究のうえ大いに真似る進取性も持とう」。私はこれを「創意と工夫」と表現しました。
倉本はこうも言っています。真似よと私が言うのは、その精神や技法のことであり、店構えや文章など、目に見えるものをうわべだけ猿真似せよというのではない」。
お客に有利な商いを毎日続けよ
原典は「お客に喜びや利益を与える営みが商人の正業と知って、これを素直に実践しよう」。私はこれを「奉仕の継続」と表現しました。
倉本はこうも言っています。「人間は生きるために食わねばならぬ。だが、食うために生きているのではない。商店はお客のために儲けねばならぬ。だが、儲けるために商売をしてはならぬ」。
愛と真実で適正利潤を確保せよ
原典は「博い愛情、隠すところのない真実と懸命な精進とで必要な最低利潤を確保しよう」。私はこれを「適正な利益」と表現しました。
倉本はこうも言っています。「本当の利益というものは、お客のために誠心誠意尽してきた時に流す心の汗が、滴々としてしたたり落ちて、結実したものでなければ本物ではない」。
欠損は社会の為にも不善と悟れ
原典は「欠損は社会に対する悲しむべき罪と悟り、利益はお客とともに分ち合う喜びと知ろう」。私はこれを「誠実な経営」と表現しました。
倉本はこうも言っています。「利益とは社会のために尽す物質的、精神的な種火のことである」。
お互いに知恵と力を合せて働け
原典は「商売の革新と繁栄のために、同友は互いに力を合せ、知恵や知識を借り合おう」。私はこれを「協働の真価」と表現しました。
倉本はこうも言っています。「真実、友というものは、私は第二の私自身だとさえ思っている。諸君に店の店員たちが皆、そのような友人であれかしと願ってやまない」。
店の発展を社会の幸福と信ぜよ
原典は「人間の幸福を果てしなく追求して、商売の発展に永遠の希望を抱きつづけよう」。私はこれを「純粋な信念」と表現しました。
倉本はこうも言っています。「お客様の幸福な生活を守るのが商人の務めであるということに、君は極まりない誇りを持つことができるか」。
公正で公平な社会的活動を行え
原典は「社会に貢献する仕事の担い手として、いつも公正で公平な商売をしよう」。私はこれを「利他の精神」と表現しました。
倉本はこうも言っています。「商人の価値は、儲けではなく、商売を通じてどれほど社会貢献を行ったかで定まる」。
文化のために経営を合理化せよ
原典は「商売が文化を促進するという信念の下に常に経営合理化の責任を自覚しよう」。私はこれを「不断の革新」と表現しました。
倉本はこうも言っています。「これまでの経験と知識だけに頼っている店主には発展がない。どこかで新しい知識や技術刻々として生まれているからである」。
正しく生きる商人に誇りを持て
原典は「真商道とは、人間の正しさに尽きることを深く認識し、われらは誇り高く生きよう」。私はこれを「自律と尊厳」と表現しました。
倉本はこうも言っています。「商売に生きることが人間として立派に生きる道と同じだと悟った時こそ、成功した商人となれる」。
いかがでしょうか。倉本が伝えつづけたこと、それは「商いの三位一体」です。
お客様への愛情
商いへの真実
結果として得られる利潤
この三つは不可分一体なものであり、同じものであるという考え方です。愛と真実、そして利潤。この三つが重なるところに、正しい商いはあります。
