かつて九州一円に出店し、多くの生活者の暮らしに寄り添った総合スーパー「寿屋」の創業者で、同社を九州最大手に成長させた壽崎肇(すざきはじめ)さんが5月9日、96歳の天寿をまっとうされました。
大分県佐伯市に生まれた壽崎さんは1947年に、母親、妻の3人で化粧品店を創業。しかし、ご本人いわく「儲け方など全然わからないから、何か良い手はないかと探していた」。すると、雑誌商業界で泊まり込みの商業界ゼミナールを開くという記事を見つけ、早速申し込みました。「商売人にお金儲けのあの手この手を教える勉強会だと思っていた」そうです。
手許に、壽崎さんが地元紙「熊本日日新聞」に寄稿していた連載コラムなどをまとめた一冊『ありがとう寿屋 壽崎肇ものがたり』があります。そこから壽崎さんと商業界のご縁を紹介します。1953年、第6回商業界ゼミナールに参加されたことが始まりでした
〈儲け、利益が商売の目的であると私は考えていました。
それが、ゼミナールで儲けは商売の目的ではないと強烈に頭を叩かれました。人生の目的を諭され、商売の正しい道を教えていただいたのです。
倉本先生は「店はお客さまのためにある」「店員とともに店は栄える」「損得より先にまずお客さまに喜んでいただくことが善である」とお教えになる。
思い出すのは、初参加した三日間のゼミ最終日、別れの昼食のことです。俺は商売の考えが間違っていたと各人が口々に涙ながらに語りました。
私も嬉し涙なのか決意の涙なのか、カレーライスを食べ終わるころはメガネに涙がいっぱいたまり、ご飯が見えなかったのが懐かしく思い出されます。
同部屋の六人で話し合ったことは、まずはお客さまの満足をいただく、そしてリピート客になっていただくこと。来年も参加して話し合おう、と言って別れました。
ゼミナールに参加するまでは、店は自分たち家族の生活のためにあると考えていました。それだけにゼミがなかったら倉本先生に出会えなかったら、小売屋で終わっていたのではないかと思います。〉(27ページ)
以来、壽崎さんは商業界ゼミナールへ途切れることなく参加され続けました。そこでの学びを壽崎さんは商いの経営の柱とされたのです。寿屋の経営理念を見てみましょう。
■寿屋の憲法
一、店はお客様の為にある
二、従業員とともに店は栄える。
三、利益はお客様の満足料
■三客主義
一、商品を買ってくださる消費者という名のお客様
二、消費者に喜ばれる商品を提供してくださるお取引先様という名のお客様
三、このすばらしい商品の販売に携わる従業員という名のお客様
■五つの誓い
一、お客様第一主義を誓います。
二、愛と真実の商道を誓います。
三、笑顔のサービスを誓います。
四、物価安定への努力を誓います。
五、ご満足一〇〇%の追求を誓います。
私自身は、商業界が催していたアメリカ小売業視察ツアーでたびたびご一緒させていただき、その旺盛な好奇心と何からも学ぼうとする姿勢に教えていただくことばかりでした。また商業界ゼミナールなどでお会いするたびに声をかけてくださり、ご指導いただいたことが思い出されます。ご逝去の報に接し、心から哀悼の意を捧げます。