惚れ惚れする男がいて、一人ひとりが輝くチームがあります。標高1000メートル、八ヶ岳の北斜面、長野県佐久穂町で有機野菜を栽培する萩原紀行さんと、萩原さんご夫妻から始まった「のらくら農場」のメンバーです。
「どんな状況でも楽しさを見出し、純粋な心でこつこつと、一つひとつ積み上げていける根気力の持ち主」とは、萩原さんも私も尊敬する「福島屋」の福島徹さんによるプロフェッショナルの定義。「ああ、これって萩原さんのことだ」と、のらくら農場を訪ねて思ったことがありました。
さらに彼は、そのレベルの高い営みをチームとして実現することを目指しています。スタッフのお一人がつくってくださった、まかないのお昼ご飯のおいしさがその到達度を感じさせます。
大切なことを記しわすれていました。書名は『野菜も人も畑で育つ』(同文舘出版)。副題は〈信州八ヶ岳・のらくら農場の「共創する」チーム経営〉といい、萩原さんが仲間とともに試行錯誤をくりかえしてつかんだ仕事、生き方の公式が綴られています。
その一つに「マーケットイン:プロダクトアウト=4:6」というものがあります。マーケティングを学ぶと必ず接するテーマですが、彼が実践からつかんだ結論を、少し本文から紹介しましょう。
「こうやって取り組んでみると、マーケットインとプロダクトアウトは対になる概念ではないと気づく。生産者側の視点と言ったって、要は「お客さんが喜ぶもの」というのがやはり前提になる。僕たちが作りたいというのが出発点だが、御取引先やお客さんにとっても必ずいいものであるはずだ、という強い思いがなければ成り立たない。マーケットインと言ったって、生産者の都合を無視して造ることは結果的にお取引先にご迷惑をおかけしてしまう」
萩原さんはこのように理由を綴り、次のように結論づけています。
「どちらも溶け込んでいるような、落としどころを見つけていく作業がとてつもなくおもしろい」
彼がつくる野菜同様、味わい深く滋味ある一冊。おすすめします。