何でも一通り揃えております。
しかし、ロクなものはございません。
――こういう商売のどこに
お客を引く魅力があるのだろうか。
AとBの二種類しかございません。
しかし、そのいずれもが
確信のある品でございます。
――こういう特色のある商売の仕方に
お客は大きな魅力を感じる。
商業界草創期の指導者、岡田徹の遺したメッセージです。ロングセラー『岡田徹詩集」に収められたこの一文を、昨日あらためて読み返しました。
このとき思い起こしたのが、東京・吉祥寺にある和菓子店「小ざさ」の商いでした。同店の看板商品は一日150本限定生産の羊羹。それを求めて早朝からお客様が並びます。
そして最中。こちらは限定生産ではありませんが、やはり同店を代表する商品です。シンプルながら、一つ、もう一つ手が伸びるおいしさがあります。
「小豆が不作で価格が3倍に上がった時がありました。問屋さんが心配して、質は変わらないが少しは安い小豆を勧めてくれたんですが、ひと袋炊いてみてもやはり使えないので、結局、その年は3倍の値段の小豆で我慢してつくり続けたことがあります」とは、「信用を貯金しろ」という先代の教えを守り続ける稲垣篤子社長です。
「信用を貯金する」という哲学(philosophy)が込められた商品、そこには単なる流行を超えて語り継がれる物語性(story-rich product)が宿ります。拙著『売れる人がやっているたった四つの繁盛の法則』の提案は、こうした店の実践の真理を抽出したものです。
専門店である以上、こうした単品は大切です。もしくは、そうしたカテゴリーの存在。ほとんどのお客様が買い求めていくような看板商品。お客様の記憶に残り続ける店にはそうした商品があります。
かといって、何か新しい商品を開発したり、調達してくることはありません。今、すでに売場に並んでいる品の中にそれはありません。それを徹底的に磨き上げるところに輝きを放つ品があり、深く掘り下げるところに繁盛の泉が湧きだすのです。