継ぐつもりのなかった100年続く家業を継ぐことになった青年が、多くの競合店がひしめく東京・かっぱ橋で、業績が低迷していた店を立て直そうと、さまざまな改革にチャレンジ。ところがその方向性がずれていて、安売りに走って業績はさらに悪化、店の信用はがた落ち。「この店には未来がない」と、ほとんどの従業員が一斉退社するなど、しくじり続き……。
しかし、出会いを生かす者は人生を変えることができるもの。飯田屋6代目・飯田結太さんの著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』は、老舗料理道具店の復活と若き商人の成長ストーリー。若き店主の商いを変えた“三人の神様”との出会いをきっかけに、自店の強み、やるべきこと、そして自身がやりたいことを見いだしながらつかんだのは、「大切なものを大切にする」というシンプルな常識と、「喜ばせ業」という事業の在り方でした。
ここでは、そんな飯田屋の特徴の一つ、POPを紹介します。POPとは、売場に欠かせないもう一人の販売員。商品の価値を的確に伝え、お客様に笑顔をもたらしてくれる、最良の商品との出会いの演出家です。名づけて「飯田屋 勝手にPOP大賞」。参考となれば幸いです。
◎動機づけ賞
なぜ、この中華鍋が優れているかを、エピソードを交えて説明。「お客様は長い説明文は読まない」というのは誤解で、興味のあること、面白いことなら、どれほど長くても読んでくれるもの。
落としぶたを知らない外国の人へ、その使い方、効果を英語で説明。もちろん、外国の方の購入がみるみる増えたという。
◎絆づくり賞
商人は価値の伝達者。どれほど優れた商品であっても、その価値がお客様に伝わらなければ、その価値は無に等しい。つまり、商人は価値の創造者なのです。
竹皮で包んだおにぎりのおいしさ、それを一緒に食べる楽しさを読んだ一句が、お客様との距離を縮めてくれる。
◎笑顔創出賞
意味不明ながら、思わず目を止めてしまう一枚。もちろん、商品を説明するPOPも添えられているから、そちらも思わず見入ることになる。
商品の独自性を語る文面の横には、何やら歴史を感じさせる写真が添えられている。ところが一切無関係という落ちが笑いを誘う。
◎優秀賞
「野菜が神々しい」という7文字が、商品の特徴をみごとに言い表している。その簡潔さが、その理由を知りたくなる心理を生み出している。
最後に落ちを置いた説明文は、飯田屋POPらしい一枚。お客様を楽しまそうと工夫を凝らしている点が受賞の理由。
こちらもユーモアあふれる一枚。「なぜ、料理道具屋にファラオ?」とお客様の興味を集め、商品の特徴を解説。「ラーもなっとく」だし、お客様も納得。
◎大賞
お客様とのやりとりを日記風に記した一枚。寝ても覚めてもお客様の喜びを第一に考えている様子が伝わってくる。
以上、売場で目に留まったPOPを勝手に選考してみました。これら以外にも、飯田屋には素晴らしいPOPがたくさんあります。だから、小さな店なのに、入ったら最後、なかなが出てこられない魅力にあふれているのです。
そして注目したいのが、POPを一度つくったらそれで終わりではないこと。お客様の反応、売れ行きを見ながら、常に書き換えられています。だから売場が新鮮です。だから、何度も訪れたくなるのです。
あなたのお店を確認してみてください。そのPOP、いつからそこに張られていますか? POPも鮮度が重要な生鮮品であることを忘れてはいけません。