笹井清範OFFICIAL|商い未来研究所

「人は、自らが教えるときに最もよく学ぶ」

 

愛知・岡崎で始まり、この9月には全国一斉まちゼミを開催する「得する街のゼミナール(まちゼミ)」を取材するたびに思い起こすのが、冒頭に紹介した経営学の大家、ドラッカーの言葉です。アメリカ先住民族の一つ、ソーク族にも「師は教えることでまた学んでいる」という同様の意味を持つ格言があります。

 

 

まちゼミとは、商店街やまちの店(店主)が講師となり、その分野のプロならで専門知識・情報や、その人ならではの趣味・特技を、無料で受講者(お客様)に伝える少人数制講座。今や実施地域は全国で410を超え、継続的に開催されているコミュニケーション事業です。

 

講座内では販売をしない――まちゼミの大切なルールの一つです。その場の売上よりも、受講者に自店や自分自身を知ってもらうこと、そして講座を通じた「お客様」の満足の提供を目的とするからです。その結果として「店」には新規客との出会いと売上が、「地域」にはにぎわいがもたらされます。“三方よし”の活性化事業と言われるゆえんです。

 

さらにまちゼミは、売り手と買い手の関係ではなく、関心ある話題を共に語り合う友人どうしの親しい関係を、お客様との間に育む営みでもあります。一方(店)が教え、他方(お客様)が学ぶという固定的なものではありません。講座を通じて、実に多くのヒントを学ぶことできるはずです。

 

「お客様が何を求めているのかわかるようになった」「これまでプロとして伝えるべきことを伝えていなかった」「もっと喜んでいただけるように、さらに知識を身につけたい」「商いに対する考え方が大きく変わった」

 

これらは取材を通じて出会った、まちゼミの実践者たちの言葉です。そう、彼らは教えることで、多くのことを学んでいるのです。まさにドラッカーやソーク族の言葉のとおりです。

 

これまで中小事業者は自らの衰退の原因を、他者に求めることが多かったように思います。大型店が近隣に出店するといっては反対を唱え、それが郊外に移転するといえばまた反対と言い、「インターネット通販に売上をとられた」といった具合です。そして、現在では「コロナのせいで……」と続きます。

 

たしかに、そうした点を否定はしません。しかし、変化は世の常。変化を受け容れつつ、自らを革新させていくことを怠ってはなりません。答えは自分自身の中に、たとえ減っているとはいえ店を訪れてくれるお客様の中にあります。

 

まちゼミは、自らの商いを見つめなおす機会を与えてくれ、自らを革新する力を育ててくれます。まちゼミの価値はそこにあり、その手ごたえを感じているからこそ、多くの商業者が実践するのだと私は考えています。

 

 

「商売の真実の目的は、儲けることにはない。社会の人々の要求を満足させる点にあるのであって、それを遂行することで、利益を上げるのが望ましいのみである」(倉本長治『商人の哲学』)

 

まちゼミの本質もここにあります。全国一斉まちゼミでも、行うことを目的とするのではなく、講座に参加してくださる受講者一人ひとりの満足を目的に据え、そこからコロナ禍を乗り越えていく知恵を見つけ出してほしいのです。

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笹井清範

笹井清範

商い未来研究所代表
一般財団法人食料農商交流協会理事

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